第12話:嘘だと言ってよ!今明かされる、イルク様の真実



「イルク様、再びお会い出来て光栄でございます」


「ええ、私もですよ」




見つめ合うナオキとイルク、二人は自分達の世界に入っている


正しくは、ほぼ一方的にナオキが入っているだけだが




「何カッコ付けてんだか...」


それを呆れた顔で冷ややかに見つめるパルフェ


さっきまでだらしない顔をしていた癖に、凛々しい顔付きになっているナオキを見ればそうなるだろう






「勇者ナオキ、あなたの活躍は聞いておりますよ」


「聞けば、クラーケンを二度も退治したとか」




「その通りです!俺はクラーケンを二度も退けたのです!二度も!」


「嘘は言ってないのよね...」


その通りである




「そしてこの洞窟を見つけ見事に私の元へとたどり着いた、なんと立派な事でしょう」


「いやぁ~、勇者として当然の事をしたまでですよ~」


「あんたが見つけた訳じゃないでしょうが」




あの冒険者が教えてくれた情報、それが運良く当たっていただけである








「あなたはなんと素晴らしい勇者なのでしょう」


「いえいえ~」




「本当に...なんて...」


「...ふふふ」


「イ、イルク様?」




「あーっはっはっはっはっはっ!」


「えっ!?」


「な~んて期待を裏切らない面白い方なんでしょ~!」


イルクが大笑いする、さっきまでの清楚や清純の権化とは思えない姿にナオキは目を丸くする




そして、思い出したのである


イルクと最初に出会った時の口調を




「イ...イルク様...?何であの時の口調をまた...?」


「何でと言われましても~」


それに対して、パルフェが言った




「ねぇ、もしかしてこの女神さま、これが本当の口調とか性格なんじゃないの?」


「はぁ!?そんな訳ないだ...」




「大正解で~す☆女神様ポイント進呈で~す☆」


「嘘でしょ...」


「本当で~す☆」


「...嘘だ」


「現実を受け入れてくださ~い☆」


「嘘だと言ってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」




ナオキは心の底から叫んだ、しかしこれが現実だ


目の前にいる清純の欠片もないような腐れ女神こそが現状なのである




さっきまでの清楚で麗しい素敵な女神様など、もはやそこにはいないのだ




絶望するナオキにパルフェがにやにやした顔で言う




「ふ~ん、この人があんたの愛おしくてたまらない愛する女神様だったんだ~」


「うっ!?」


その言葉にイルクは反応する




「まぁ!私の事をそんなに愛してくれているんですか!?イルク大感激です♥️」




「な、何言ってんだ!俺がいつそんな...」


「あら?寝言とかでよく、イルク様~♥️とか愛しております~♥️だの結婚してくださ~い♥️なんて言ってたけど~?」


「いやぁ~ん♥️いくら私が可愛いからって、そんなに愛の告白されたら困っちゃ~う♥️」




ナオキは更に絶望した、こんな事を寝言等で言っていた事を本人の前でバラされたのである


そして知っている、こういうタイプの連中はいつまでも同じネタでいじってくる物であると




「でも仕方ないわよね~、こんな美人な女神様じゃしょうがないわよね~」


「ですよね~、美しい女神様の自分がこわ~い♥️」




この腐れ女神と腐れちんちくりんが、その顔じゃなければ八つ裂きにしてくれた物を


と、ナオキは拳を震わせ堪え続けた








そんなナオキを見てイルクが


「そう言えば、あなたに一つ言い忘れていた事がありました」


「なんすか」




ナオキのイルクに対する好感度は駄々下がりであった、無理もない




「あなたの能力についてです」


その言葉に、ナオキは反応した




「そうだ、俺の能力はどうなってんた!今まで全然発動しなかったぞ!?」


「え、あんたって能力あったの?」




二人の言葉にイルクは




「その事なんですが、実は...」


先程とはうって変わって真剣な表情だ




「実は?」


「実は...」


「実は...?」


「そう、実は...」










「すみません、あげるの忘れてました☆」




ナオキとパルフェがズッコケる




「おいぃぃぃぃぃ!何してくれてんのあんた!」


「てへ♥️」


「可愛こぶるな!」


「可愛いですもん☆」


「黙れ!」




「この人、ホントに女神様なの...?」




そう思うのも無理はない、だが現実だ




「だから、今ここであなたに能力を授けようと思います」


「ならさっさと寄越せ」


「あらもうこんな時間、おやつの為に私帰りますね」


「すいません冗談です能力ください」




その言葉にイルクは


「ちらっ、ちらっ」


とナオキを期待の眼差しで見る




ああ、アレだ


この女神は横にいるちんちくりんと同じ物を欲している






「麗しく美しい愛するイルク様、どうかわたくしめにあなた様の力による能力をお授けくださいませ」


「うふふ、よろしい」




頭を下げるナオキに対しパルフェは




「あらナオキちゃん、女の人に対しての言葉使いが上手になったわね~、えらいえら~い☆」


と、頭を撫でる




ナオキの顔は怒りに満ちていた


いつまでこの腐れコンビに良いように弄ばれなきゃならんのだと






「それでは授けましょう」


「では...」




大きく息を吸い込んだイルクは




「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




と、雄叫びを上げて凄まじい光を放った




「俺らを殺す気かこいつは!?」


「ホントにこの人女神さまなのぉ!?」




目映い光に眩む二人は言った


間違いなく現実だ






目映い光が収まり、ナオキは視界を遮っていた自分の腕を見る


そこには腕輪の様な装備品があった




「何だこれ?」


「それが私からのプレゼント、もとい能力を授けました」


「単なる腕輪にしか見えないけど...」




「ただの腕輪ではありません、それは特定の言葉に反応しパワーアップ出来る物なのです」


「特定の言葉?呪文か何か?」


「それはですね...」


「それは?」








「今からあなたの好きな言葉で出来るようにします」


「えっ!?」


ナオキはその言葉に大きく反応した




「す、好きな言葉!?」


「はい」


「ホントに!?」


「もちろん」


「ホントのホントに!?」


「女神に二言はありません」






ナオキは心の底からワクワクしている


アニメや漫画のキャラがキメ台詞を叫び、バワーアップをし敵を倒すというお決まりのカッコいい展開


それが今から自分も使えるとなるのだからテンションも上がるだろう




「マジか...何にしようかな...」




ナオキは悩んだ


出来るだけカッコよくて様になるのが良いだろうと


そして、考えた末に




「よし!それじゃあ...!」


が、次の瞬間




「パルフェちゃん最高大好き!」




と、パルフェが先に言ってしまったのだ




「はい、パルフェちゃん最高大好きですね」


「は!?今の無し!!」




「残念ですがもう取り消せません」


「俺が言った訳じゃないだろ!?」


「あなたが言った事じゃなければいけないとは言ってませんが?」


「はぁ!?何でそれ先に言わないんだよ!」


「聞かれてませんから」


「あぁそう...」


またこのパターンである




「そこを何とか!」


「じゃあイルク様最高万歳愛してる!とかで良いですね?」


「...今のままで良いです」




「や~ん♥️今のままで良いなんて、やっぱり可愛いパルフェちゃんの事が大好きだったのね~♥️」


「あらあら~、お熱いですねお二人さん☆」


「...」




パルフェとイルク、腐れちんちくりんと腐れ女神の腐れコンビが憎たらしい顔でにやにやしながらナオキを見る


ナオキは必死に怒りを堪え


「地獄に落ちろ...」


と、二人に聞こえないぐらいの声で呟いた 












「さてさて、名残惜しいですがそろそろお別れの時間です」


「やっとか...」


「は?」


「なんでも...」


ナオキは内心ホッとしまくっている


ようやくこの腐れ女神から解放されるのだ


気が休まるのも当然だろう




「それではお二人、お元気で☆」


「元気でね~、女神様」


「はよ帰れ」


「あーそれから」


「?」




「また会いましょう、私の愛する愛しのカッコいい勇者」


「ナ・オ・キ☆」


と、イルクはウインクをしながら光へと消えていった


「...」




ナオキはただ黙って見ていた


それに対してパルフェは


「良かったわね~、愛する女神様に会えた上に、能力まで貰えちゃって☆」


「...」


「何より、可愛いパルフェちゃんへの愛の言葉でパワーアップ出来る様になったんだから、あんたってホント幸せ者よね~☆」


「...」


「あ~んも~、パルフェちゃんの可愛さがこわ~い☆」


「...」




ナオキは何も言わない




「ちょっと、さっきから何黙って...」


パルフェがナオキの顔を見る


そこには、疲弊して絶望した顔のナオキがいた


彼は、今日1日で色々と失くしたのだ




女神への好感度、女神への愛、男の純情、男の尊厳、勇者という物へのやる気とカッコいいキメ台詞の命名権


ありとあらゆるものが失われた


キメ台詞に関しては横のちんちくりんのせいだが




「ナ、ナオキ?」


「...」


「その、元気出して?」


「...」


「ほ、ほ~ら!パルフェちゃんの可愛さで元気にな~れ☆」


「うっふ~ん♥️」




パルフェの行動に対し、ナオキは




「ありがとうパルフェ君の可愛さで元気になったよぼくはキミみたいな可愛い女の子が仲間で居てくれて誇りに思うよ」


と、光の無い目をしながら早口で小さく微笑んだ




「ねぇあんた大丈夫?ホントに平気?無理しなくて良いのよ?」


パルフェは本気で心配した、口調まで変わっているのだから




「大丈夫だよパルフェさぁ町へ帰ろう危ないからぼくが守ってあげるからねさぁこっちだよ」


と、ナオキは再度光の無い目をしながら早口で喋り、外へのルートへと歩いて行った


彼はもうここには居たくないのだろう






帰路へと向かって行くナオキの姿を見ながらパルフェは言った




「ナオキ...」


「...」


「こんな事なら...」








流石のパルフェも、腕輪の件を始めとした今回の件には


「腕輪の言葉、パルフェ様万歳ぐらいにでもしとけば良かったかしら?」


大して反省も同情も、この腐れちんちくりんがするわけなかったのだった

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