第7話 告白

「先輩、私と付き合ってくれませんか?」


私はその言葉に対して沈黙を返すことしか出来なかった。この子……結衣ちゃんは私の事を出会った時からとても慕ってくれている。そして私も今日1日結衣ちゃんの側にいてとても楽しく愛おしい時間を過ごすことが出来た。


そんな中でのこの言葉は願ってもない言葉でとても魅力的でもし私じゃなければ迷わず了承の返事をなんなら結衣ちゃんより先に告白しているだろう。


けど私は告白を了承することができない。了承したいとどんなに願っても不可能に近い。なにせ私はなのだから


◆◆◆


前野知翠は両親に生まれることを望まれていなかった。だから両親は私に愛情を注いでくれたことなど一度もなかった。罪を犯したくない臆病者だったから私を殺すことができなかっただけで罪に問われないのなら私は間違いなく殺されていただろう。


そう信じて疑うことなどないくらいには私と両親の仲は悪かった。というより両親は私の事が嫌いだった。


私は物心着いて時には既に私の環境が普通では無いことに薄々とだが気づいていた。だから小学校に入りその事を確信した時もこの環境をどうにかしようなど考えることはなかった。


まぁ、その結果周りから不気味に思われたのか私は完全な孤立状態で小学校を卒業することになったのだがこればかりはどうしようもないだろう。


中学校に入学してもそれは変わることは無かったが私は演技を覚えた。無表情で感情が無いように感じてしまうから不気味がられるわけで上っ面だけとはいえ表情をつくれば周囲から忌避の視線を向けられことはないと私は知った。


その辺から私には友達が出来た。まぁ友達と言っても私が合わせてるだけなので本当に友達と言えるかは怪しいところだったけれども。


そんな嘘の顔をつくって周りに合わせる生活は高校でも変わることがなく、私は一生を嘘の顔を被ったまま死ぬのだとそう思っていた。


けどそんなある日両親が高速道路での交通事故で他界した。原因は不備によるエンストで高速道路ぐらいでしか出せないスピードで走らないと起こらない現象だったらしく周りは私の不幸を哀れんだ。その事故がで起きた事故だとも知らずに。


私は車のエンジンに不備があり一定の速度を越すとエンストを起こす可能性が高いことをなんとなくだが知っていた。


けれど両親にはあえて言わなかった。その時は両親が今まで私にしてきたことの報いを受ける。そう考えていたからだった。


だからこそ警察から遺留品を渡された時に私はした。両親の車は炎上し殆どのものが焼け跡形も無くなっていたが唯一それだけが形をほぼ完璧に保っていた。


それはだった。ラッピングされており中には木箱の中に入った有名ブランドのハンドクリームとメッセージカードが入っていた。メッセージカードには


『前野知翠へ

あなたは私達を恨んでいると思います。なにせ私達はネグレクトに近い行為を18年も行い続けていたのだから。

その事には弁明のしようがありません。けれど言い訳を許して貰えるなら私達はあなたが怖かった。あなたは生後半年で言葉も発し始めました。最初は「私達も天才だ!」など親バカあるあるをするくらいにはあなたのことを好いていました。けれどあなたが喋る言葉が全く知らない人名を言い続けるなど奇妙なものばかりで次第に私達はあなたを畏れ避けていきました。それによってあなたが辛い思いをしてると知ったのはごく最近です。私達はそれを知った時に今までの事を恥じました。

今日は知翠の誕生日。仲直りをしたいという気持ちと共にこれを贈ります。知翠、今までごめんね。これからは家族の思い出を沢山つくろうね

臆病な父親と母親より 』


この2人は私にこの文を読んで、喜んで欲しかったのだろう。このメッセージカードが遺言に等しいものとなることも知らずに。


その日から私は勉強に勤しんだ。元々勉強は出来る方だったが国立難関大にも余裕で合格出来るくらいには努力した。ボランティアなども頻繁に参加して徳を積もうとした。


私は自分の意思で見殺しにしておきながら今になって強い後悔を抱いている。自らを臆病と自嘲するくらいに心の弱い両親が勇気を出して差し伸べた手を私自らの手で払い除けたことをどうしようもないくらい悔いている。


私は……前野知翠は犯罪者人殺しだ。私はきっと誰かを愛す事など許されない。私は誰かを愛す権利がない。私は私を愛そうとしてくれるものに一緒に罪の十字架など背負わせたくない。だから……結衣ちゃんの告白は断ろう。そう決めたはずなのに


「結衣ちゃんはどうして私の事が好きなの?」


私の口から出たのは断る言葉ではなく疑問だった。


「先輩のに私の大切な人がいるからです」

「それって初めて会った時に言ってた前世っていうのと関係あるの?」

「そうです。先輩の中にいるのは前世から私が愛してやまなかった人です」

「中にいるだけなのに私の事が好きなの?」

「いえ、正確には先輩の中にいる人が好きです。しかし出てくる気はないようなので出てくるまで先輩の恋人として傍にいたいって感じです。あ、先輩の事が嫌いとかそう言うのではないですよ?あくまであの人以外基本興味無いだけなので」


そう語る結衣ちゃんの目は見てるこっちか胸を締め付けられるようなそんな瞳だった。


「結衣ちゃんはどうやったらその人が私の中から出てくると思う?」

「先輩が直接干渉できて無いことから先輩が何かを起こすのではなく、外部から刺激を与えて叩き起す……無理やりにでも中から引きずり出します。例えば思い出の場所に行くとかです」


結衣ちゃんのその言葉で私は気がつく。今日私を遊園地に連れてきたのはその結衣ちゃんの前世で大切な人を私の中から引きずり出してでも再会するためなのだと。それほどまでに結衣ちゃんはその人に会いたいのだと。


それなら……


「わかった。そういうことなら結衣ちゃんと付き合うよ。その代わり1つ条件を出すけどいい?」

「もちろんです。……でも先輩自身を好きになって欲しいみたいなのは無理ですよ?」

「そういうのではないよ。私が出す条件は私にその人との再会を協力させること」

「そんな条件でいいなら全然了承しますけど……あの人が中から出てきたら先輩はどんなに上手くいってもあの人と先輩が逆転して先輩は一生あの人に自分の体を使われ続ける。最悪死亡しますよ?そんな簡単に協力しちゃっていいんですか?」


……どっちにしろ私はほぼ死ぬようなものなのだろう。だから結衣ちゃん私に詳細を告げずに遊園地ここに来た。


流石の私でも死ぬのは怖い。けれどもその死によって私の好きな人の願いが叶うなら私は。私は人殺しだ。だからロクな最後は迎えられないと覚悟していた。だけど好きな人の願いを叶えて死ねるのなら私は自分の人生に少しは意味を見いだせるのかもしれない。


「……私が死んでもその人が結衣ちゃんのそばに居る。なら私は死んでも構わないよ。それでどうする?条件を受け入れてくれる?」


「………わかりました。先輩の条件を受け入れます。そういうことなので先輩、これからとしてよろしくお願いします」


恋人、たとえ私のことを好きじゃなくても結衣ちゃんにそう呼ばれただけで私が死ぬくらいの価値はあるだろう。それくらいに私は結衣ちゃんに恋をしてしまったのだと私は改めて自覚した。


「こちらこそよろしくね」


観覧車から見えるその夕景はとても眩しくとても儚く感じた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結衣さんは私と結ばれたい〜前世から好きでした〜 @komesakana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ