第5話 その眠りは目覚めと執着を誘う
私は窓の光で目を覚ます。昨日は……久しぶりに夢を見た気がする。いつもと違い夢の内容を殆ど覚えてないことに少し引っかかりを覚えるが改めて考えてみると夢の内容なんて覚えてないのが普通なのでそんなものか納得する。それよりも……
「あ、先輩おはようございます二日酔いとかは……なさそうですね。とりあえずご飯作ったので一緒に食べません?」
「えっと結衣ちゃん?なんでここに?」
「あ、やっぱり覚えてないんですね、予想はしてましたけど安心……じゃなくて心配が杞憂になって良かっです」
「あ、その様子を見るに私が自分で色々と喋った感じ?」
「はい!無防備な先輩はとっても美味しかった……可愛かったですよ?」
かなり不穏な言葉が聞こえた気がするがここ数日で流石の私にも少し耐性がついてきたみたいだ。
「えっと家まで送ってくれてありがとね。いくら意識がある言っても酔っ払いの世話は大変だったでしょ」
「いえ、私が先輩に関することで負担や疲労を感じるわけないじゃないですか」
そう語る結衣ちゃんの目に光は宿っていたかった。……あれここ現実だよね?そう言ってしまいたくなるほどにその目は非現実的だと私は感じた。
あまりの異様に私が固まっているといつの間にか元の目に戻っていた結衣ちゃんが口を開いた。
「そういえば朝食を作ったんでした。先輩、冷めちゃう前に食べましょう?」
「う、うん、そうだね。冷めちゃうのは勿体なから食べちゃおう」
私は先程の結衣ちゃんの様子について聞きたかったが半ば強引に話題を変えた結衣ちゃんを見るにあまり深入りして欲しく無いのだろう。
そう思った私は結衣ちゃんの提案に肯定するそれに結衣ちゃんが作ってきてくれる弁当はいつも美味しいのだが弁当であるため食べる時にはどうしても冷めてしまっている。その状態ですら十分美味しいのだ。
正直作りたての結衣ちゃんのご飯を楽しみにしているのも事実である。
「こ、これを全部結衣ちゃんが1人で作ったの?」
「もちろんです。我ながらそこそこ上手に出来たなとは思っているのですけど……少し多く作りすぎちゃって、多かったら残してくれても大丈夫ですから」
その言葉に私は小さく頷く。献立はご飯、大根の味噌汁、鯖の塩焼きというよくありそうなザ・和食のようなものになっている。
私は箸をとり手を合わせる
「いただきます」
私は各料理を1口ずつ口に運ぶ
ご飯は炊きたてなのかまだ温かく保温や再加熱によるパサパサ感がなくもっちりしている。鯖の塩焼きは程よい塩梅でまるで私の好みの塩加減を完全に把握してるのではないかと錯覚するくらいには好みの味になっている。そしてなにより……
「……このお味噌汁美味しい」
「……先輩ならそう言ってくれると思ってました」
ふと漏らした感想に結衣ちゃんは非常に満足そうに微笑みながらそう答えた。
それにしてもこの味どこかで……いや、私の記憶に結衣ちゃんの味噌汁を飲んだこともなければ似たような味の味噌汁を飲んだこともない。けど、どこか懐かしいような……
私は不思議な感覚に陥りながらもそれなりに楽しく結衣ちゃんと朝食を取るのだった。
〜結衣side〜
暗闇の中小さく鳴るアラームの音で私は目を覚ます。隣を見ると
あまりの可愛さに私は先輩にあれやこれして悪い虫がつかないようにかつ愛でたい衝動に襲われたがなんとか抑える。
もしこれが詩音先輩だったのなら迷わず襲っていただろう。しかし先輩が響守詩音の生まれ変わりでは無いということではない。
寧ろ私の中で
もちろん、無意識にしてる癖や好みなどが前世の先輩と全く一緒だからという理由もあるのだが何より私の
前世の私は先輩の死後、先輩の為に生きていたと言っても過言では無い。そんな私が確信しているのだ。私が先輩とそれ以外の存在を間違える訳が無い。そう断言できる。
「……結衣ちゃん、いつもありがと」
突然言われたその言葉に私は驚く。私は独り言を口に出してしまうことが多いのでさっきの言葉を聞かれてないか心配になったのだ。
「……大丈夫そうかな」
さっきの言葉は寝言であったことに安堵と喜びを感じる。何せ、先輩が無意識に寝言で私の名前を呼んでしまうほどに先輩の心の中に私という存在が染み込んでいってるのだ。
それがあの頃の先輩を彷彿とさせられて私はついに衝動を抑えられなくなってしまった。
「頬ならバレないよね……」
私は先輩の頬に軽くキスをした後二の腕にキスマを付ける。これくらいならギリギリ虫刺されで通せるだろう。
そこまでされても全く動じない先輩に興奮を抑えられなくなりそうになった私は自分の頬を軽く叩き、先輩の寝室から出る。向かうはキッチンだ。
「……さて、作りますか」
私はあの
材料は昨日のうちに買っておいた。後は作るだけなのだが……
「やっぱり先輩は変わってないなー」
キッチンの調味料を見た私はそう呟かずにはいられなかった。
なにせ調味料の並びや種類そして量の偏りが詩音先輩と全く一緒なのだから。
先輩は砂糖と塩を見分けるのが下手だったから必ず塩と砂糖はほぼ反対の位置になるように置いていたこととか、塩の近くには塩味系の調味料を砂糖の近くには甘味系の調味料を置いたりしてるとことか、明らかに砂糖より塩の方を多く消費してる所とか全部詩音先輩と一緒なのだ。
私は少し感傷に浸りながら先輩の好きだった朝食を作り始める。先輩の反応が楽しみでしょうがない。
私の料理を食べる先輩はとても可愛かった。なんというか味の感想を顔で語ってくるような感じで見てるだけで好みの味だったんだなって誰でもわかるだろう。まぁ、前世の先輩が好きだった味を再現してるのだから好みであって当たり前ではあるのだがそれでも先輩の味の好みが変わってないことに安堵する私がいた。
……先輩は本当に記憶がない。それはわかっていたけれどもまさか味噌汁の味でそのことを改めて分からせられるとは思っていなかった。
先輩はこの味噌汁は懐かしい味がする。口に出してなかったけれど私には先輩がそう思ったことがわかった。それと同時に類似する味の記憶が無いことも私にはわかってしまった。
なにせ、この味噌汁は私と先輩の両方の好みに合わせて作ったものだ。その結果他とは少し違うものを使ったりする。つまり偶然同じ味の味噌汁を味わうことはないはずなのだ。
それなのに懐かしい顔と困惑したような顔をした先輩は間違いなく前世の先輩でだけれど記憶が無いことは疑いようの無い事実として私は認めざるおえなかった。
まぁ、先輩が私の手料理で記憶を思い出さなかった場合の対策法は考えてある。だから私は先輩に提案した。
「先輩、私とお出かけ《デート》しませんか?」
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