第4話 夢で2人は邂逅する

【前書き】

ストーリーの構成上知翠の心理描写に()がついてるものとそうでないものがありますがミスではなく意図的にそうしています


〜知翠side〜

ふと気がつくと真っ白な空間にいた。確か今日は新人歓迎会があって結衣ちゃんと一緒に飲んでてその後は……何も覚えてない。つまり……私は酔って寝ちゃってるんだろうなー。まぁ、前酔った時も家に帰れてはいたみたいだしそこは心配しなくてもいいはず……記憶がないから断言はできないけど


というか私は家に帰れるかどうかよりも一緒に飲んでくれてた結衣ちゃんに申し訳ないという気持ちの方が大きかったりする。週明け謝らないとなー


……正直結衣ちゃんのことだからわざと私を酔いつぶして家を特定してそうな気もするけど想像するだけでも怖いので深くは考えないことにした



それにしてもよくよく考えたらここはどこなのだろうか。家はこんなに白くない。そうなると病院……いやベットも見当たらないしなにより私には寝ているという自覚がある。そうなると


(ここは夢……明晰夢かな?)

『正解だよ、よくわかったね?』

「ひゃぅっ…!」


びっっくりしたー、今声が聞こえたような気がするけど気のせいだよね?うん、気のせいと言うことにしておこ…『もう、酷いなー気のせいじゃないよ』


気のせいじゃなかったよ。……という誰なんだろ、声に心当たりは無いし、夢で意思疎通できるってちょっとファンタジー過ぎない?ここ現実だよ?


『いや、今の君は夢を見ているんだから正確には現実じゃないと思うよ?』


(確かに……じゃなくて結局あなたは誰なの?)


『うーん、私はなんだよ?まぁ、そんなこと言っても理解できないだろうからとりあえずはもう1人の自分見たいな認識でいいと思うよ』


?それって別人格見たいな感じなの?)


『うーん、当たってもないけど外れてもないみたいな感じかなーあなたの名前は知翠だけど私の名前は詩音だから全く一緒の存在って訳でもないんだよ』


……普段だったらバカバカしいと思うのだろうけど詩音という名前に妙なしっくり感を感じる。けど私の身近に詩音なんて人は1人もいない。なにより詩音が言った私はという言葉が事実ならば


(もしかして詩音って私の前世だったりする?)

『ピンポンピンポン〜まぁ、最近前世の記憶持ちとあったばっかりだから流石にわかるか』

(……もしかして結衣ちゃんの前世で好きだった人って詩音?)

『そうだよーまぁ、あんなに悪化してるとは思わなかったけどねー』

(悪化ってどういうこと?)

『うーん、簡潔に言うと私が生きてた頃はあんなに執着してこなかったんだよね。ふつーのイチャラブカップルみたいな感じ?寧ろ私があんな感じで少し喧嘩したこともあったくらいだし』


それから私は詩音の惚気を聞くことになったのだが、聞けば聞くほど今の結衣ちゃんと正反対のように思える。今の結衣ちゃんは何でもできる天才みたいな感じで短所が私が関わると少しおかしくなるというイメージだが詩音の惚気を聞くに寧ろダメダメで詩音が世話を焼いていたように感じる。


『あ、そろそろ時間だ』


確かによく見ると空間の至る所に綻びが生じ始めてる。そろそろ起きる時間ということなのだろう。


綻びは数分で空間全体に広がり私自身も少しずつ消えかかっていた。


『そうだ、色々話しといて悪いんどけどさ記憶のリソースの関係で起きた時には殆ど覚えてないだろうからそこんところよろしくねー』


そういうのはもっと早く行って欲しかった……そう口にする前に私の意識は遠のいて行くのだった



〜詩音side〜

ふむ、行ったか。私は知翠わたしが様態を悪化させることなく起きたのを確認してそっと安堵する。


知翠には悪いけど前世のことを知られる訳には行かない。だから記憶のリソースなどと適当に誤魔化して知ってると面倒な事態を起こしそうな記憶を消した。


私と愛香の別れはかなり酷いものだった。死んだ私はまだしも1人残された愛香の心は壊れる寸前だっただろう。


だから私は死に際に愛香に生きる理由を持たせた。『私という存在を世界から忘れさせないで』そう言った。私は家族もとっくにいなくって仕事を偽名で行っていたため私の本当の名前を知ってるのは愛香だけだった。私達の中で名前は私達が私達である存在の証明だった。


だから愛香は私を追わずに最後まで自分の存在を証明して欲しい。そういう囁かな願いだった。


けど愛香はその言葉を私を殺したのはお前なのだからお前は私の存在を証明することで償いをしろ、そう受け取ってしまったのだろう。


私の愛香の人生を愛香自身のために生きて欲しいと思い紡いだ願いは愛香にとって生きなければならないあまりに重い枷となってしまった。


その枷はやがて愛香を蝕み愛香は私の為にしか生きられなかったのだろう。


つまり何が言いたいのかと言うと私の言葉によって愛香は感情も夢も人生さえも私という存在に依存させてしまったのだ。


今の愛香は知翠愛香の記憶を思い出していないためあの程度の依存ですんでいる。


もし知翠が前世の記憶を思い出したのなら愛香はきっとあらゆる手を使って自分のものとする。もしそうなったら知翠は確実に壊れるだろう。もしくは……


そこまで考えようとして私はふと思考を止める。結局の所知翠が記憶を取り戻さなければいい。ただそれだけなのだから


私は知翠の平穏をただ願うばかりだった









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