第2話 私の後輩は少し怖い
自己紹介で結衣ちゃんのことが少しばかり不安になった私であったが、意外にもその後の結衣ちゃんの言動に不審な点は一切なく寧ろ大学を出ているのもあってか仕事の飲み込みも早く人柄もいいので上司からの評価も高い。ただひとつ困った点をあげると……
「知翠先輩、今日もお弁当作ってきたので一緒に食べません?」
毎日私にお弁当を作ってきてくれるのだ。栄養バランスも良くて自炊が苦手でコンビニ弁当を買っていた私にはとってもありがたくこれだけじゃ何も困るようなことはないだろうしかし
「今日は先輩が好きなオクラの和え物も作って来たんです。あ、いつも通りきのことか茄子は入ってないので安心してくださいね」
毎回私の好物を作ってきてくれるのだが、私は一度も結衣ちゃんに好物を教えた記憶はない。会社の人にも当たり障りのない程度しか伝えていない。つまり結衣ちゃんは私の好物など知りようがないはずなのだ。
それなのに結衣ちゃんは私が他人に言ったことない好物すら知っているようである。最初はまぐれかと考えたのだが甘めのだし巻き玉子が出てきたことでそのあては外れたのだった。
私は他の人には普通の玉子焼きが好きと言っているので他の人に私の好物を聞いた場合だし巻き玉子なんて出てくるはずもない。更には甘めという私しか知りえない好みまで正確に把握していたのだ。その時の私はあまりの怖さに本気でストーカーされてるんじゃないかと思ったほどである。
「う、うん……結衣ちゃん作ってきてくれるのは嬉しいんだけど無理して毎日作って来なくてもいいんだよ?」
「いえ、知翠先輩のためなので全く苦じゃないんです……寧ろ他の人達が作った料理によって知翠先輩の体が作られてる方がもっと嫌ですし」
後半はイマイチ聞き取れなかったが寧ろ聞かない方が良かったような気がするのであえて聞き直すようなことはしない。こういう時の勘は従っておくべきだというのが私の経験則だからだ。
「じゃあ一緒に食べようか」
「はい!」
嬉しそうに笑う結衣ちゃんは夢で見たあの人に似ている、そう感じた気がした。
◆◆◆
「それでは新人の入社に乾杯!」
幹事の音頭と共に新人歓迎会が始まった。私は人と話すことがあまり得意じゃないということもありいつも端っこの方で隠れるように過ごすのだが今回は結衣ちゃんが隣に座ってくれた。
「結衣ちゃん乾杯」
「知翠先輩乾杯!……あと私のことは呼び捨てでも構いませんよ?」
「い、いや私がちゃん付けしたくて付けてるんだけどダメ?」
後輩と言えど流石に同い年の呼び捨てを私はしたくなかった。というより何故かちゃんを付けが非常にしっくり来るのだ。
「いえ、ダメということはないのですが……やっぱり先輩は生まれ変わっても先輩だなって改めて実感しました」
結衣ちゃんの呟きは飲み会の喧騒の中に消えて行くのだった。
「先輩、お酌させてください」
「……あれ、私結衣ちゃんに梅酒が好きだなんて言ったっけ?」
ビールを飲んでいた私に結衣ちゃんは梅酒を注文してくれたみたいだ。……不思議なことに私は飲み会では基本ビールなので会社の人達が私は梅酒を好きと知るはずがない。偶々だと普段なら結論付けたかもしれない。
(けど結衣ちゃんなら私の全てを知ってそうなんだよなー)
「え、私が先輩のことで知らないことなんてあるわけないじゃないですか。元恋人ですよ?先輩の食の好みはもちろんのこと好きなタイプだって知ってますしなんなら性感帯も……」
「結衣ちゃんそれ以上は言わないでおこうか。いくら酒の場で殆どの人が酔ってるとは言えプライベートは大事だからね」
このままだと結衣ちゃんに全てバラされると危機感を感じた私は咄嗟に制止した。この子余りにも私のこと知りすぎじゃないだろうか本当にストーカーしてるんじゃ……そうなると私の家とかももしかして
「先輩、私が先輩の事を知ってるのは先輩の好みや性格が前世と全く変わらないからであって今世の先輩とは出会ったばかりなので家とか家族構成とかは流石に知りませんよ?……まぁ、今日中に家は突き止める予定ですけど」
「……私顔に出てた?」
私はそう聞くのが精一杯だった。いつもの如く最後の方は聞き取れなかったもののそれでも私の心中を正確に当てることに少し怖がってる私がいた。
「うーん、普通の人には全く分からないと思いますよ?けれど私は先輩の事を誰より知っていますから。だから先輩が私のことを少し警戒してることももちろん知ってますしあまりにも私が正確にあてるものだからもしかしてストーカーしてるんじゃないかって考えてたんじゃないですか?」
「その言い方だとストーカーをしてるわけではないんだね?」
もうこの際なんでわかるのかとかを考えるのは諦めた。いつも考えてるのに分からない時点でお酒が入って酔いがまわり始めてる私に分かるはずがない。だからストーカーをされてるかどうかだけはどうしても知りたかった
「ストーカーなんてしてませんよ。というかストーカーできるくらい先輩を早く見つけられてたら今頃私達は幼馴染になってると思いますよ?私がいくら幼くても先輩を見逃すはずがないので」
「……じゃあ私と同じ会社に入社したのは偶然?」
「いえ、それは必然です。だって先輩がここに入社してるって確信してましたから」
そういいながら寂しげに微笑む結衣ちゃんはとても切なそうでけれどとても綺麗だった。
「分かった、私も深くは聞かないよ。結衣ちゃんを信じてるから。……結衣ちゃんも一緒に梅酒飲も?」
「……はい、喜んで」
それから私達は飲み会が終わるまで2人で楽しく飲んだのだった。
その結果私は泥酔状態になるのだがそれはまた別の話である。
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