結衣さんは私と結ばれたい〜前世から好きでした〜

@komesakana

第1話 プロローグ

私は不思議な夢をよく見る。まるで別の人の人生を追体験する。そんな夢だ。その夢では必ず1人の女性が出てくる。その女性は夢の中の私をいつも愛しそうに眺めていてたまにはにかむように笑う姿に初めて見た日から私はずっと惹かれていた。


そんな夢も就職と同時に見なくなった。入社した会社はブラックではなかったものの人手不足の日本において余裕がある訳でもない。


馬車馬の如く働いた私は気づけば4年の月日が経ち22歳になっていた。そんな私は今日初めて部下を持つ。緊張もあるけど何よりここ数年の働きを評価されたような達成感が大きかった。


部下を持ったことで様々なトラブルに巻き込まれるかもしれない。けどきっと乗り越えられる。

なにせ私がそうだったのだから。そう信じていた、部下となる須藤結衣すどうゆいと会うまでは……


◆◆◆


結衣の第一印象はとても綺麗で可愛い女性という認識だった背中まで長く伸びた金髪と知的な紅の瞳は私とは正反対の印象だった。なより強い既視感があった。夢でよく見た私に対していつも笑う名前も知らないあの人に


「今日からあなたの上司となる前野知翠まえのちあきです。同い年なので気になったことは色々と聞いてください」


「須藤結衣です。よろしくお願いします。それで知翠先輩にひとつ質問というかお願いがあるのですがいいでしょうか?」


先輩、その響きに私は少しこそばゆい気持ちになる。なにせ今までは自分が先輩と呼ぶ立場だったのだ。先輩と呼ばれたことで改めて自分が上司となって人に教える側に立った自覚が芽生える


「結衣さん先輩って呼んでくれるのは嬉しいんだけど歳も変わらないし知翠さんでいいよ。それでお願いってなにかな?私に出来ることなら頑張ってみるよ」


そういえば先輩感を出したいがために考え無しに了承しちゃったけどまぁ初対面で変なお願いをしてくる人なんていないよねそう考えてた私の思いは呆気なく裏切られることになる


「知翠先輩、私と結婚してください!」


……私の聞き間違えだろうか?今結婚と言われたような気がしたんだけど、まぁ流石に聞き間違えだよね。


「えっと結衣さん、今結婚って聞き間違えちゃったからもう1回言ってくれない?」

「え、結婚で間違いないですよ?それで知翠先輩結婚してくれますか?」


間違えであって欲しかった……口には出さないものの私は心の中で頭を抱えながらそう思った。訳が分からないがとりあえず理由くらいは知りたい。もしかしたらなにか事情があるのかもしれない。


「私と初めてあったと思うのだけれどどうして結婚したいって思ったの?見ての通り私は普通の成人女性だよ?」

「え、だって知翠先輩と私って前世では法律で許されてたら結婚をしてたくらい愛し合ってたじゃないですか。結局前世では結婚出来なかったので法律で合法化してる今世で結婚しようかなって思ったんです」


私はあまりの衝撃にフリーズする。前世なんて不確かなものを普段の私なら信じることはないだろう。しかし結衣の目は余りにも純粋だった。まるで実際に体験したことがあるかのように……いや、本人は前世を体験もとい転生したことを信じて疑っていないのだろう。


「気持ちは嬉しいのだけれど残念なことに私にはその前世?とやらの記憶が無いのだから私にとっては結衣さんと会うのは初めてなの。だから申し訳ないのだけれど結婚はお断りさせていただくわ」


私はなんとか言葉を絞り出して結衣さんにそう告げた。結衣さんには前世の記憶があるのかもしれないけれど私にはそれがない。その時点で私の中では他人なのだからいきなり結婚は無理がある。そう考えての判断だった。


「そうですか……先輩の完全に記憶が戻ってないのは想定内でしたけどまさか全く残ってないとは想定してませんでした。まぁ、戻ってない事を想定してわざわざ先輩の部下になったんです。今世こそは先輩と結婚して見せます。だってそれが先輩との■■ですからね」


俯いてブツブツを呟く結衣さんはとても怖かった。しかしそれ以上に既視感のある哀愁を私は感じた。まるで■■みたいだ。


(ん、今誰を思い浮かべたんだろう。確かに結衣さんと似てる人を思い浮かべと思ったけど……)


奇妙な感覚に戸惑っていると結衣さんが口を開いた


「先輩、私のことは結衣って呼び捨てで呼んで欲しいです」


いきなりの申し出に私は戸惑う。しかしそう言った結衣さんの目は今までで1番真剣だった。……まだ出会って1日も経ってないけど気にしないことにする。


「ゆ、結衣……これからよろしくね」

「はふぅっ……はい、これからよろしくお願いします先輩!」


そうして私に奇妙な後輩ができたのだった



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