第47話 ダンジョン・コア

 いくつかの剣を飛ばしてきた相手の正体の輪郭が段々とはっきりしてくる。その間に、クルマは傷ついた仲間の治療をしていた。彼のSkillにも限界があるらしく、完璧とは呼べない治療になってしまったが。それでも、彼らの体制を整えるのには、十分な治療だったらしい。


 現に、彼らたちは自身の武器を構え直し、まだぼやけているが、確かにいるココに相手に集中する。


 そう、空中にいる相手に、だ。昔から高台を取ったほうが戦闘面に関しては有利だと言われてきた。もちろん、それはダンジョン攻略も例外ではない。飛行が可能な魔物、ドラゴンなどが恐れられているのは、こういった要因もあるのだ。私の場合は狭い通路にドラゴンがいたため、倒すことができた。もし、ドラゴンに遭遇していたのが、広い空間だったら死んでいたかもしれない。


「遠距離部隊! 攻撃開始!」


 リーダーらしき男が声を掛けると、全員が一斉に攻撃を始めた。その甲斐もあって、相手の姿がどんどんとあらわになっていく。そして、現れたのは大きな白い翼を背中に生やし、赤黒く血の色に染まった目をギョロリとこちらに向けている、人形。口は、力が抜けたようにだらりと開けていて、その中からヘビのような細く、長い舌が姿を見せている。


 私は、その怪物を見たときになぜか人間のようだと感じた。そう、まるでこの怪物は色々な生物を混ぜてできたような、たくさんの人のSkillを混ぜて作られたような気がする。もちろん、これはただの感覚であり、絶対なんて断言することはできない。


 だけど、雰囲気が人特有の温かさがあるのだ。そして、それに無理やり混ぜられているような敵意も強く感じる。相手の姿をみて私は、とあることを確信した。そう、これは確信。


 彼らはここで死んだ。

 そして、彼らは必ずここで死ぬ。


 ただ、それだけのこと。変えられない運命。もう、過去のことであり、普通なら私が知ることがなかった記憶。それでも、抗いたいと思ってしまった。だから、気づいたら私は周りのツタを使って部屋の高台に登り、相手に向かって刃を向けていた。もちろん、その刃が届くはずもなく、存在しない空気のように、漂うだけのチリのように静かに落下していく。


 大きな音を立て、地面に落ちても痛みを感じなかった。ただ、痛むのは心だけだ。もう一度、やってみようか。そう考え体を起こしているうちにも、生きて、立ち向かっている生者たちの命はどんどん散っていっている。相手には、ダメージも入っていない様子。それは、確かな一方的な虐殺だった。


 なぜなら、彼らの攻撃も意味がないのだから。彼らが攻撃している間に、つけられた傷はどんどんと完治していく。こちらの回復術士のクルマさんも、回復が間に合わない。


 なんとかしなくては、そんな思考が頭を支配していた。もう一度、攻撃を試す? いや、それは意味がない。彼らの運命を変えるには……。いま、私ができることは? 何ができる? 太刀打ちできない過去にどうやって立ち向かう? 


 考えるな、行動しろ! 自分に強く言い聞かせたときだった。天井から鈍い音がした。ハッと上を見上げると、怪物が今までにない大きさの刃を作り出し、こちらに向けている。意識しろ、 あの刃を壊すと。


 敵の武器に意識を集中させる。壊れろ!壊れろ。心が叫んでいた。他に、私が干渉できそうなものはないだろうか? 辺りを見渡す。すると、何か光っているものに気づいた。敵がいる天井のくぼみのような所。シャンデリアのようなものだろうか? 何か光が漏れている。ぼんやりとした光が。


 少し、目を細め段々とそのものに焦点があってくると、私はその物の正体を理解した。そして、今ある大きな刃の位置に目を向ける。


 ダメだ。間に合わない。


 そう感じた。アレは、アレは……。ダンジョン・コアだ。そんなに敵が振り上げると、あと少しで刃がコアを持ち上げている鎖を切り離してしまう。


 クルマもそのことに気づいたらしく、大きく叫んだ。


「全員、撤退!! 壁に寄れ!」


 彼の声が響き渡るとすぐに大きな瓦礫が天井から落ちてきた。異形の形をした怪物は、ほのかに光る宝石のようなダンジョン・コアに吸い込まれていった。


 ***


【ダンジョン・コア】

 それは、ダンジョンの結界を管理しているマザーコンピューターのようなもの。ダンジョンの最深部の近くにあることが大半で、このコアが魔力を絶えずダンジョンに供給しているおかげで、ダンジョンの魔物をダンジョンの内にとどめていることができている。


 ダンジョンでは、外に魔物は出ることができない。下の階層に行くほど、魔物が強くなるのも、このコアがあるおかげだ。特殊な結界により、ダンジョン内で生まれた生物は、そこの場所から出ることができないようになっている。


 ダンジョン協会の目的は、このコアを管理化に置き、傷ついたり、悪質な探索者によって壊されないようにすることだ。理由は簡単であり、ダンジョン・コアがないだけで、魔物は外に出られるようになる。いくら、この世界は誰でも一つSkillを持っていたって、誰でも魔物と戦えるわけではない。


 社長。リンさん。チセさんも、Skillを持っているがダンジョンに行くことができないように。


 そして、今そのコアが地面に強く叩きつけられた。綺麗に、大きな亀裂がコアに入っている。さらに、強力の魔物の魔力を吸収した事により、大きな魔力がコアから漏れ出している。


 普通なら、こんな状態になったらこの国は滅びる。


 それなら、なぜ私が生きている現代は、存続しているのか? その答えが私の目の前にあった。


 一人の英雄の姿が。誰にも知られなかったため英雄の姿が。クルマと言う名の青年が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る