第44話 弱点は上書きして
「
私がそう叫ぶとすかさず、彼がムカデの攻撃を受けてくれる。その隙を見て、群れから出てきたものを1体1体倒していっているのが、今の状況だ。
確かに、1体1体減らしているはずなのだが……。目視では、全く数が減っている気がしない。それが、余計に少ない体力を持っていく。GOLNさんも、スキを見ては攻撃してくれているのだが、攻撃を受け返すことが精一杯という状況だった。
つまり、どちらかがいつ体力が尽きてもおかしくはない。この一歩、さらにもう一歩を踏み出すたびにもう無理かもしれない……。倒れるかもしれない……。という不安が、私の中で渦巻いていた。
言ってしまえば、ドラゴンよりも相手が悪いかもしれない。私のスキルが複数系の魔物には、弱いという弱点が明確に、露見し始めていた。
「結愛! 下がれ!!」
彼のSkillが発動していた。私の目の前には、バーチャル空間のような、どこかのRPGゲームのような透明な選択肢がいつの間にか表れていた。
そこには、
反射で、相手の姿の全身を見ることができる……、私の即死Skillが、使える。私は、急いで反射して写ったムカデに向けて、意識を向ける。すると、即死Skillの発動条件とあい、消滅していく姿を確認。彼のSkillの選択肢には、
もし、この反射が使えるのだとしたら……。この作戦しかない、私たちが生き残るのには。
「GOLNさん! Skillをもっと私に使って、Skillの選択画面を出してください!」
「どういう事だ? 俺は、一つの行動にしかSkillは……。」
「今、やるしかないでしょ! じゃないと、体力が尽きて、今度こそ私たちは命を落としてしまいますよ! やるんですよ、GOLN!!」
彼の無力そうな返事を待たずに、叫んでいた。きっと、命の危機ではなかったら言わなかっただろう言葉。今でも、言ってしまったことを後悔しているほどだ。
しかし、彼はその言葉が心に刺さったらしい。先ほどまでの無力感で支配された目の中に、覚悟を決めた人にしか見えない光が宿った。
「わかった。俺が、倒れても先に進めよ!」
彼が、そう叫んだ瞬間。3つの選択肢が表示されているウィンドウが展開される。しかし、3つでも限界なのか、ウィンドウに書かれている文字は、
『逕溘″繧九°豁サ縺ャ縺』
という見事な文字化けを起こしていた。しかし、今は文字は関係ない。ただ、ウィンドウに写った反射さえ写れば良いのだ。
視野が広くなったことで、私のSkillの発動可能範囲が大きく増えた。しかし、それでも全ての魔物を一度に即死させることはできない。ここからは、完全な体力勝負である。
時間が立つにつれ、減っていく魔物たち。そして、歪んでいく視界、痛くなっていく体中の関節。はぁ、はぁと、上がっていく息。肩で息をすることだけで、精一杯だ。
「GOLNさん!Skillを……」
後ろを振り返ると、そこには……
誰もいなかった。
ただ、彼が持っていた大きな特注品の盾と、先ほど見た魔法陣のようなものが今にも煙なって存在を隠すように、元々なかったかのように消えていった。
そして、いつの間にか一つのGOLNさんのSkillの選択画面が現れている。そこには、『生きる』と、『死ぬ』という選択肢が表示されていた。ウィンドウの色も、今までは鮮やかな水色だったはずだが、警告文のような赤色になっている。
彼の置き土産だろうか?
急いで、『生きる』の方に意識を向け、そちらを選択しようとする。しかし、選択することができない。すぐに、この選択をせずに、選択自体を拒否する方に意識を変えた。しかし、ウィンドウは消えず未だに私の目の前に、究極の二択を表示するだけである。いくら、意識を変えても、目線を変えても、ウィンドウ自体に即死Skillを使おうとしても、選択肢の画面では『死ぬ』と、書かれた方にカーソルがいってしまっている。
赤色だからか、あまり反射が難しく周り魔物も1人で倒すことが難しくなってきた。早く、選択しなければ……。
『死ぬ』か、『生きる』か。
この選択には、主語がない。私が、『死ぬ』のか、相手が『死ぬ』のか……。そこを利用できればよいのだが、そう上手くは行かないだろう。
また、このSkill自体がGOLNさんのSkillなのかも怪しい。GOLNさんのSkillに負荷がかかりすぎて、一時的に誤作動を起こしている可能性も捨てきれないのだから。
しかし、このウィンドウがわたしの目線の先を支配しているので、うまく反射を利用することができない。この数なら、直接視野に入れて、魔物を倒したほうが効率も、安全面でも良いだろう。だから、この選択肢を何としても、閉じたい。
私は、今までの思考のなかで自分なりの一つの答えを決めることにした。ゆっくりと、意識を『死ぬ』の方へ向ける。
その瞬間、つよく頭に痛みを覚え私は床に倒れ込んでいた。視界からは、目の奥から溢れ出てきたような闇の中に沈んでいく。どんどん見えなくなっていく視界のなかで、何も考える事はできなかった。
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