第41話 聖人と黒騎士②

 三倉が消えた空間を見つめるオレ達。

 セルディがオレを見る。

 手応えはあったはずだと、オレは小さく頷いた。


 しかし、【転送】を知らないグレイ達は別だ。

 特にこの場に三倉を連れてきたジュニパーは、責任を感じて放心してしまった。


 そんな葬式ムードのグレイ達を他所に、フォーブランの高笑いが響き渡る。


「はっはっはっはっはっ! 見たか、見たか、見たか! コレが【聖人】となった私の力だ!」


「何度でも言うが、それはゼラの力だ!

 癒しの力だ! 決して人をあやめる為の物ではない!」


 グレイが剣を突き付けるが、フォーブランは全く意に介さない。


「ほざけ! 女神の手先が!」

 ズブリとフォーブランが腹に刺さった金属杭を抜き取る。

「やはり貴様らには、【聖人】たる私の力を思い知らせる必要がありそうだな」


「あああああっ!」


 フォーブランの声に合わせて魔石が輝きを増し、ゼラが苦痛に悲鳴を上げる。


「女神を屠る、真の力を見るがよい!」


 そして魔石の輝きがフォーブランに移り、その体を輝かせた。

 ゼラは気絶したのか、もう何も言わない。


 光の中、フォーブランの姿が変わっていく。


 筋肉が増え、頭の両側から歪で大きな角が生えてきた。

 髪は白銀に硬質化し、体中に隈取りのような模様が浮かび上がる。

 そして、瞳の無い目が金色に輝く。

 差し詰め、【聖人】の第二形態といったところか。


 やがて光が収まると、そこに立っていたのは人とも魔物とも呼べない生物だった。


 赤く染まった体。隈取り模様から溢れる白銀の光。


 その光の一部は台座の魔石と繋がったまま。


『黒騎士いいか?』


 と、シュークからの通信。


「どうした?」


『状況を説明する。中継している物体が【聖女候補】から魔力を奪い続けて蓄積している。そこから討伐対象に魔力を供給しているようだ。

 体が魔力崩壊を起こさないよう、調整されているのだろう。

 中継物体はかなりの魔力を溜め込んでいるから、破壊しようと思うなよ。

 恐らく大爆発だ』


「成る程。ということは、ゼラを引っ剥がせばいいのか?」


『そのゼラというのが【聖女候補】ならね』


「了解した。と言うことで……」


 と、切り出してみても、誰も通信内容を知らないから無駄か。


「あの魔石はほぼ爆発物なので手出し無用。

 攻撃対象は【聖人】フォーブラン。

 【聖女候補】を台から外せば、魔力の供給は押さえ込めそうだ」


「どうして知っているのかは分かりませんが、状況は分かりました。

 では、魔法師団長たる私は接近戦は不得手ですので、援護いたしましょう」


「ああ頼む。突っ込むのは自分だ」

 オレはジュニパーに頷く。


わたくしはゼラの救出に」


「微力ながらお供いたします」


「役割分担が決まったところで、行くぞ!」


 その言葉を合図に、セルディとグレイ達は移動をはじめた。


 残ったのはオレとジュニパーだか、オレは気になっていることを訊いてみた。


「しかし、よく初対面の自分を信じてくれたな」


 するとジュニパーは、

「セルディ嬢のお陰と思ってください」

 と答えた。


「?」オレがどういう事かと首を傾げると、ジュニパーが教えてくれた。


「彼女のことは学園や貴族の集まりで見かけますが、辺境伯家の令嬢であることを差し引いても、他人を信用していません。

 が、貴方には直ぐさま現状報告をしました……。まあ、彼女が信用するならば、信用に足るのだろうということですよ」


「……何となく納得した。じゃあ、行ってくるよ」


「援護は任せたまえ!」


 オレが駆け出すと、ジュニパーは既に手慣れたものと、壁の金属板を引き剥がして即席杭を四本作り出すと、即座に二本を撃ち出す。


 光の聖人と化したフォーブランの右肩に直撃するが、先程の様には刺さらず多少バランスを崩しただけだ。

 そこへ左の懐に潜り込んだオレが、渾身の力で剣を振り上げる。


 左手が魔石から離れた……が、まだ光は繋がっている。


 ニヤリと笑うフォーブランが、右拳を握り締めて振り上げる。


 ヒーターシールドの前に、さらに魔法障壁を五枚追加展開。

 正面から拳を受け止めずに、斜めにして拳を逸らす。が、それでも障壁は全部砕かれた。


 まあ、クッション程度にはなったかな。


 直ぐさま立ち上がり、フォーブランの首に剣を叩き込む。

 ぜんぜん斬れやしない!


 しょうがないので、思い切り腹を蹴飛ばすがコレも効かない。

 どうしたものかと首を捻ったら、ジュニパーの杭がフォーブランの足元に着弾。

 途端にフォーブランが痛がりだした。

 一体何をしたんだ?と思ったら。


「どうですか? 体は強くなっても、小指の先は痛いでしょう!」

 とジュニパーが叫んでいた。


 うわ~。えげつな。


 しかし、これは好機なので乗らない手は無いな。


 バランスを崩したフォーブランの背中に蹴りを入れると、前のめりに倒れた。

 ようやく動かせたよ……。倒せるのか?コレ。


 そして、この隙を見逃すまいとセルディ達がゼラに駆け寄った。

 セルディは足元、グレイ達は二手に別れて両手の拘束を解くと、落ちてきたゼラを担いで急いでその場を離れていく。


 すげー連携だな。


 などと関心はしてみるが、状況はそこまで良くは無かった。


「ぐああああっ!」とフォーブランが苦しみだしたのだ。


 様子が変だ。

 すると、またシュークからの通信。


『黒騎士。すまん、読みが甘かった』


「またまた嫌な予感しかしないんだが」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 特務隊リーンの本部には、既に全メンバーが集まっていた。


 薄暗い部屋の中で、全員の目が一つのモニターに釘付けになっている。


 そこには、【探査球】から送られたデータか、3Dで描かれていた。

 丸い物体から右に伸びていた矢印にバツがつけられ、左に伸びた矢印は赤く点滅している。


 その隣には、クウォンのヘルメットから送られてくるリアルタイム映像が写るモニターがあった。


 そのモニターの正面に陣取るのが、オペレーターのドーナ。


 その脇からシュークが身を乗り出して、マイクを使って喋っている。


「そのゼラとかいう娘がシステムから抜けた結果、暴走をはじめたようだ。

 どうも、正規の手続きが必要だったらしい」


「あちゃ~」とドーナが頭を抱える。


『手続きってのは大概面倒だから、この際仕方ないとして、暴走って?』


「どうも制御が利かなくなったらしく、討伐対象への魔力供給が増加した。

 このままだと、討伐対象が魔力暴走して爆発する」


『規模は?』


「正にウルトラ爆弾級。新都の半分は軽く吹き飛ぶ。

 そこにいる全員を【転送】で逃がしても、新都都民は吹き飛ぶ」


「なんてことだ……セルディ」


「間違っても斬るなよ」


『硬くて斬れねーよ!』


「と言うことだけど、どうするチーフ」


「まあ、【オーナー】がおねんねの最中なので、「こんなこともあろうかと」と、預かってる」

 と折り畳まれた紙切れをシュークに渡した。


 それを開いたシュークは、「相変わらずだね」と軽く呟くと全員を見据えて声を上げた。


「では行きます。【傾聴! まったく、おちおち寝てらんねーだろ!】」


 その言葉を合図に、室内の明るさが夜明け前の薄明かりから昼間のように増した。


「声紋、キーワード、照合確認。

 オーブ二号機【ヤタ】、アイドリングモードから通常モードに移行。

 全システムフル稼働」


 と、慣れた手つきでコンソールを操るドーナ。

「【リミット・ブレス】とのリンク正常!」


『まあ、そうなるわな。じゃあ通信制限入るから三分後に。

 カウントよろしく』


 その声にヨウカが頷いた。

「OKいくわよ。リミッター六十%まで限定解除承認。カウント、オペレーターに引き継ぎます」


「カウント引き継ぎます。十秒前、八、七、六、五、四、三、解除スタート!」


『ファイターモードチェンジ!』

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