第5話 はじまりの夜④
冒険者ギルドの通常業務は、午後七時まで。
それ以降は夜間業務となり、職員も冒険者もまばらになるのが日常だ。
それが今、八時を大きく回った時間であるにも拘らず、職員全員が勤務に戻り壁内に残っていた冒険者もほとんどが集まっていた。
その顔ぶれを見ると、大体ここ半年以上はこの街にいるメンバーだ。
そしてその中には、当然オレやライオスとそのパーティメンバーもいるわけだが。
「ちょっとクウォ〜ン。急な招集で申し訳ないとは思うけど。
一応サブギルド長の私が話をしようって時に、随分美味しそうな物を持ってるじゃないの?」
そう呼ばれるオレたちの手には、分厚いステーキが挟まったサンドウイッチがあった。
あっただけじゃないか。現在進行形で食っている。
「すみません。せっかくライオルの奢りでビッグホーン(鹿の魔獣)のステーキを食べられるところだったので、勿体なくてテイクアウトしてしまいました!
っていうか、なんでオレだけ?」
そう、当然ライオル一行も同じ物を食っている最中なのだが?
「細腕の私が、ライオルやベアードに言える訳ないじゃない」
「……なにをご冗だ…「なんか言った?」ん…いえ、ナニも」
「さて仕切り直しますが、先ずは急な招集にも拘らず集まってくれてありがとう。
まあこんなことも滅多にないことだから薄々分かっていると思うけど、緊急事態です」
言葉を切ったヨウカが冒険者たちの顔を見渡した。
数人の冒険者の息を飲む音が聞こえる。
「サデイラ病が確認されました」
ヨウカの言葉に大半の冒険者が「マジか!」と声を上げた。
中には病気に疎い者もいたが、殆どの冒険者はヤバいことが起こったと理解しただろう。
オレたちも深刻な事態にメシどころではないと、食べかけのサンドウィッチを紙で包み直すと、バッグの中にしまいこむ。
「幸い、壁内への侵入は防げたと報告が上がっていますが、発症が確認されているのは街道沿いの町ベガルタ。
全員がほぼ一斉に感染した為、現地の医師や治療師も感染しており、対処出来ていない状態とのことです」
「あの、サデイラ病って何すか?」
「あ? ほっときゃ数日で死ぬ病気だよ」
「マジ!?」
「ちょっと待てよ! ベガルタには妹がいるんだよ!」
「ゼンさんとこの定食美味かったのに……」
「おい、みんな無事なんだよな!」
「その病気治るんだよね!」
冒険者の1人がオレを見た。
ギルドでは当直医を除けば「病気に詳しいのはオレ」という空気がある。
であれば、オレが話をしなければならないだろう。
「サデイラ病は薬があれば治る。材料も難しいものじゃない」
その言葉に安堵の溜息する。
けれど、問題はそこじゃない。
「問題は患者の数だ。それによって必要な薬の、材料の量が変わる。
採取そのものは難しいことじゃないが、数をそろえるのが厄介だ。
で、いちばんの問題は自然発生なら、町の人全員が一斉なんてありえないってことだ」
「ということは何か? 自然じゃねえってことは……」
その誰かの問いかけにヨウカが答えた。
「領主様とギルマスは、誰かが病原をばら撒いたって考えてるわ」と。
「マジかよ……」
「なるほど。それで全員集めたのか」
そんなライオルの言葉に、オレの隣の冒険者が「どういうことだよ」とヨウカに詰め寄る。
「治療の為の人員派遣だけなら、この人数はいらないわ。
可能性だけど、もし病原をばら撒いた犯人がいて、こちらの対応を探っているのなら、その一味の仲間が情報収集の為にこの壁内にまだいるのではないか……というのが、領主様とギルマスの見解です。
それと治療団を派遣した場合、犯人からの妨害が予想されます」
そこで、ギルドからの要請で冒険者たちは、3つの班に分かれることになったそうだ。
一つは見慣れない怪しい人物の捜索。
これは街の警備隊や辺境伯家騎士団との合同となる。
ニつめは治療団の護衛。
治療団の派遣は医療ギルドから。現在保管している中から薬を用意するそうだが、圧倒的に不足しているそうだ。
拠点を作るための物資の提供と運搬は、商業ギルドが担当する。
三つめは病原を持ち込ませない為の更なる警戒。
編成はその一と同じ。
いい感じで組み分けしてくれるだろう。
そしてオレは単独で動くことになった。
薬の材料集めだ。
やることはいつもと同じだが、時間と量が勝負になる。
ここに居る馴染みの奴等は猛者ばかり。
ひとたびスイッチが入れば、無駄な会話は不要とそれぞれの持ち場に向かっていく。
さて、オレも負けずに頑張らないとな!
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