あと一日だったのに……

梅竹松

第1話 早寝早起きの習慣が身についた

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 具体的には同じクラスの村松さんがオレに微笑む夢。

 そんな夢を九夜連続で見たのだ。


 同じ夢を九日連続で見るのはなかなか珍しい事象と言えるだろう。  

 だけど、そのこと自体には大して驚かない。

 なぜなら、そういう夢を見ることは寝る前からわかっていたから。

 それはちょうど十日前のことだった。


 その日、中学二年生のオレは神社で「早寝早起きの習慣が身につきますように」と願っていた。

 

 わざわざ神仏に願うほどのことでもないと思うかもしれないだろう。

 だけど、オレにとってはわりと切実な願いだったのだ。

 早く寝なければならないとわかっているのに、ついつい夜中にスマホを手に取ってしまう。次の日に学校があるとわかっているのにもかかわらずだ。

 そして深夜までだらだらとスマホを見てしまい、結果的に睡眠時間が削られ、寝不足の状態で学校へ行くという失敗をもう何度も繰り返していた。


 そんな失敗もそろそろ終わりにするべきだろう。

 いい加減、睡眠不足の生活からは脱却したい。

 でも自分の意志ではだらだらとスマホを見てしまう習慣を変えられそうになかったので、神社で神様に願ったというわけだ。


 そうしたら、その日の夜に不思議な夢を見た。

 なんと夢の中に神様が現れて、「午後10時前に就寝したらご褒美として気になる女子生徒の夢を見せてやろう」とオレに告げたのだ。

 さらに神様は、「九日連続で午後10時前に寝る健康的な生活を続けたら、10日目に彼女のちょっとエッチな夢を見せてやる」とも告げた。


 もちろん最初は変な夢としか思わなかったのだが、“気になる女子生徒”というのがクラスメイトの村松さんであることだけは容易に予想できた。

 村松さんは学年一の美少女と言っても過言ではなく、クラスのアイドルのような存在だ。

 当然彼女に片想いしている男子生徒は多い。

 オレも例にもれず彼女のことは気になっていた。


 だからその日、試しに午後10時前に就寝してみることにした。

 村松さんが夢に出てくるなんて半信半疑だったが、それでもせっかくの神様のお告げなので、従ってみようと思ったのだ。


 すると、本当に夢の中に村松さんが出てきた。

 夢の中の彼女は一言も話さず、ただ微笑んでいるのみだが、それでも神様のお告げ通りになったことに変わりはない。


 だからオレはお告げを信じ、次の日もその次の日も午後10時前にはベッドに入るよう心がけた。


 お告げは本物で、オレは毎日村松さんの夢を見ることになった。

 毎回まったく同じ夢だが、飽きる気がしない。

 オレにとって村松さんが夢に出てきてくれるのはそれほどに嬉しいことだった。


 そして、そんな夢を九夜連続で見た現在。

 オレは非常に興奮していた。


 何しろ今夜はクラスのアイドルとまで言われている女子生徒のちょっとエッチな夢が見られるのだ。

 具体的にどのような内容になるのかは不明だが、オレだって思春期真っ只中の男子中学生なのだから興奮するのも無理はないだろう。

 気になる女子のエッチな夢なんて見たいに決まっている。


 エッチな夢ってどんな感じなのだろう……?

 彼女の裸が拝めるのだろうか?

 さすがに裸だと少し刺激的過ぎるから、拝めるのは下着姿までだろうか?

 それとも18禁の動画のようなガチでエロエロな夢だろうか? 


 いずれにしても、最高の夢であることは間違いない。


 オレは今日、そんなことを考えながら夜になるのを今か今かと待ちながら過ごしていた。




 そして、待ちに待った夜。

 

 結論から言うと、オレはエッチな夢を見ることに失敗した。

 村松さんのちょっとエッチな姿を見られると思うとどうしても気持ちが高ぶってしまい、時間を忘れ、気がつけば午後10時を過ぎていたのだ。


 オレはこの上なく落ち込んだ。

 ソシャゲなどによく『十日連続でログインすると十日目に豪華なログインボーナスがもらえる』というようなシステムが存在するが、よりによって10日目にログインし忘れてしまい、豪華なボーナスを受け取り損ねた時の気分に近い。

 せっかく気になる女の子のエッチな夢を見られると思っていたのに、そのチャンスをふいにしてしまったことが残念でならない。

 やり直せるなら、最初からでもいいのでやり直したいと本気で思ったのだった。


 だけど、ひとつだけ良かったことを挙げるなら、それは早寝早起きの習慣が身についたことだ。


 もう夢に村松さんが出てくることはなくなってしまったが、それでも早く寝ればもしかしたら彼女が夢に出てくるかもしれないと期待するようになり、この日以降も午後10時には寝るようになったのだ。

 少なくとも、寝る前にだらだらとスマホを見てしまう習慣は改善された。


 健康的な生活を送る習慣が身についてから、寝不足の問題が解決し、少し元気になったような気がする。

 日中に眠くなることが少なくなったので、今までより勉強や運動に身が入るようになった。

 また、早起きできるようにもなったので、これまでのように遅刻ギリギリの時間に家を出るなんてこともなくなった。

 これは間違いなく、早寝早起きをしようと思うきっかけをくれた神様のおかげだろう。


 せっかく健康的な習慣が身についたので、この生活はこれからも続けていこうとオレは誓うのだった。

 

 


 

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