ants
平井敦史
第1話
前作『流氷の妖精』に引き続き、
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あの夢を見たのは、これで9回目だった。
夢の中で、私は人ならざるもの――魔族の女王の娘として生まれ育った。
そして、母女王の
私は王宮の侍女になりすまして潜入を果たし、女王を殺害して取って代わる機会を虎視眈々と
しかし、その都度状況は微妙に異なるものの、人間どもに正体が露見し、殺されてしまう。
そんな夢を見ること、すでに9回。
本当、嫌な夢だわ。
「今日は日曜で天気も良いし、公園に行ってみようか、
私の不快な気分を晴らそうと思ってくれたのか、
確かに、春の日差しが心地いい。
近所の公園の桜ももう咲き始める頃だろう。
暖かな陽だまりの中、ベンチに腰掛けて、ポットに入れてきたローズヒップティーを飲む。
二人で肩を寄せ合っていると、段々眠くなってきた。
「変な夢を見て寝不足なんじゃない? 眠っていいよ」
「ありがと。でも、眠いのは多分
私が冗談交じりにそう言うと、彼は真っ赤になった。
ふふっ。可愛いなあ、私の旦那さんは。
お言葉に甘えて、そのままうとうとする。いつの間にか、私は眠りに落ちていった。
――またあの夢か。
例によって私は人間の国の王宮に潜入していた。
幸い、今のところ侍女の姿の私を怪しむ者はいない。
そして、10回目にしてようやく、私は女王と二人きりになる機会を得た。
女王を手に掛け、その姿を我が身に移す。
女王にしろ、先ほどまで姿を借りていた侍女にしろ、罪悪感も憐憫もほとんど覚えない。
この夢の中では、私は魔族の倫理観に染まってしまっているということなのだろうか。
そうして私は、完全女系社会であるこの国で、絶対的な存在である女王となった。
愚かな王配は、私を愛妻だと信じて疑わない。
私は10人の娘を産み、さらにその子たちがもうけた孫は100人におよんだ。
この国で一般的な黒髪に対し、私の子、孫の髪は飴色だったが、愚かな人間どもはそのことに疑問を覚えることもない。
さらに
我々魔族がこの国を乗っ取る日もそう遠くないだろう。
さりとて、私の心の中に愚かな人間どもを
ただただ、自分の務めを果たせたという安堵感に包まれながら、私は大往生を遂げた――ところで目が覚めた。
「起きた?」
彼の優しい笑顔が私を現実に引き戻す。
私が夢の内容を話すと、
「何て言うかその、なかなかエグい……いやその、結局お婆さんになって一生を終えるところまで続くんだ。なんかそんな話あったよね。一生を終えたと思ったら、
「『
「うん、それそれ。ああ、それから、夢の中で
「確か、『
いずれにしても、人の一生も
一般的な黒い蟻ではなく、
「わ、なんか可愛いわね」
私がそう言うと、
「ちょっ、これって一時期話題になったヒアリってやつじゃ?」
「えっ、あの特定外来生物の? 毒があって刺されるとヤバいやつ?」
毒自体はそこまで強力なものではないらしいけど、アナフィラキシーショックを起こすと命にかかわるという話だ。
私は慌ててスマホで調べてみた。
「ごめん、どうやら違うみたいだね」
うん、ヒアリはもっと赤みが強い色のようだ。それに、ヒアリの体表はつるっとしているようだけど、この蟻は短い毛で覆われている。
「
それらしき蟻の情報を見つけ、記事を読み進めていって、私は思わず固まった。
「ふうん、どれどれ?」
「ええっと、何々? アメイロケアリはトビイロケアリなど他の種類の蟻に一時的社会寄生を行う。他種の蟻の巣に侵入して働き蟻を一匹殺し、そのにおいを自分になすりつけて、他の蟻たちを騙す。そしてさらに巣の奥に侵入、女王を殺して巣を乗っ取る。――ただし、自然界での成功率は極めて低い……」
私と
――Fin.
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お忘れかもしれませんが、本シリーズは
なんだか不穏な終わり方をしましたが、二人は末永くラブラブです^^;。
ants 平井敦史 @Hirai_Atsushi
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