夢ウツロ

如月むくどり

第1話

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

いや、正確には同等の夢ではなく少しずつ違う夢なのだが、1月に1度のペースで似通った夢を見るのだ。


1回目に見た夢は至極普通の夢で、近くの駅前付近にあるらしいビルの1階で営業していた洋菓子店にて、ショートケーキとイチジクのタルトを食べ、エレベーターで2階にあるCDショップで買い物をする夢だった。

なぜ覚えているのかといえば、その後も似たような夢を見たからだ。


2回目の夢は1度目と同じで洋菓子店で食べるまでは同じなのだが、エレベーターで向かった先は違い、3階にあった映画館に入る夢だった。

この時は前に見た夢に似てる程度で気にも留めてなかった。


3回目は1階の洋菓子店から次にエレベーターで向かったのは4階にあった駐車場だった。そこで私は何かを探していたみたいだ。何を探していたのかまでは覚えてはいないが、焦燥感だけは確かに感じた。


4回目の夢は少し奇妙な夢だった。

1階の洋菓子店で食べるのはいつも通りなのだが、その後のエレベーターで5階のボタンを押した。開かれた扉からはスーパーのような所があり、そこで買い物をする夢だ。購入しようとしていた物は牛肉やら野菜やらで、それらをかごに入れそのまま帰ろうとするのだが、もちろんの事ながらお金を払っていないので止められる。その際に現れる店員さんと警備員さんの顔が黒く塗り潰されたように見えないのだ。

ここで目が覚めた。


5回目の夢は1階の洋菓子店の後のエレベーターで6階に向かう。

6階にはマンションのように扉が連なっていた。601号室から順に602、603と続いていくのだが、609号室で扉を数えた標識はなくなり何も書かれていない扉だけがただただ続いていく。何も書かれていない扉を見ながら進んでいくとふと左手に階段が現れる。そこに座っている二人の少年が話し合っており、私の歩いている音に気付きこちらを向いた。私と目はあったのだが、顔のほとんどの部分が黒のボールペンで塗りつぶしたようにぐしゃぐしゃになっていた。

そこで目が覚めた。


あまりに無茶苦茶な夢だったので気味が悪くなり、恐れながらも駅前にある同じビルへ確認をすることにした。学校帰りに遊びに行こうと友達を誘って行った。

1階の洋菓子店、2階のCDショップ、3階の映画館、確かにある。4階の駐車場もある、あるのだが4階から先は無い。5階も6階も夢で見た階層はなかった。


6回目の夢は1階の洋菓子店の後、エレベーターで7階へ。

7階にあったのは家電量販店。黒く塗りつぶした顔の店員が行き来する。話しかけられるのも怖いので縮こまりながら売っている商品を見る、ただ見るもの全てガラスが割れたりまともに動かず故障していた。


7回目、洋菓子店ののちエレベーターで8階。

着いた先はメガネショップ。黒い顔の店員が静止し、カウンター越しに立っている。飾られている眼鏡はどれもフレームが折れていたり、レンズ自体が割れてなくなったり売り物にならないだろう物ばかりであった。


8回目、洋菓子店に行った後エレベーターに乗る。

ここで気付いた、9階までのボタンでこのビルは最上階なのだと。

9階の扉が開く。9階の扉の先は駅の構内だった。

ただいつもとは違い人は居らず暗い、駅に付いている時計は2時付近を指している。

ひっそりとした駅内から時折、内容の聞こえないぼそぼそとした話し声が聞こえ、その声から逃げるように外へと出る。外に出ると煌くように星が瞬いていた。

階層も最後なのだ、私はこれ以上この夢を見ずに済むのだろう。



9回目の夢は真っ暗だった。

真っ暗な中に佇む駅前のビル。小さな星明かりを頼りに1階にある洋菓子店に入る。

カウンターに人影がある、けど顔は暗闇のせいか見えない。私はここでイチジクのタルトを食べた。

そしてエレベーターに乗る。9階までのボタンしかなかったはずなのに10階のボタンが出来ていた。10階のボタンを押す。

10階の扉が開くと夜の学校の屋上が広がっていた。そこには星明かりに照らされる学生服の男子が居る。彼が何かを言っている、ただ言葉は聞き取れない。でも彼から発せられる音は認識出来る、私を呼んでいるのだ。

頭では嫌だと拒否をするが、夢の中では勝手に足が進んでゆく。

少しずつ彼に近づく、星に照らされた彼の顔は、


黒く塗りつぶされていた。


彼に手を引かれて先へ進む、一歩一歩身を引かれて。

そして私は彼と共に闇夜の空に体を投げ出していた。頬に空気が流れる、行きつく先は地面だ。


ここで目が覚めた、これが9回目の夢だった。

私は10回目の夢を見るのだろうか、いや見ることが出来るのだろうか。

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