【KAC20254】 インフラ点検ロボットの夢を見る

amegahare

インフラ点検

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 夢の中で私はアリアと入れ替わり、彼女の視点を通じて都市の地下を巡る。アリアは最新鋭のインフラ点検ロボットだ。この世界は不思議なほど現実的で、私は次第に彼女の感情や思考にまで影響を受けていくのだった。


 夢の中、アリアとして都市地下に張り巡らされた配管のインフラ点検をしているときのこと。いつものように配管のひび割れを検知し、必要な修理箇所を記録していった。

 だが、その日は何かが違っていた。

 異常に高い温度を示す管が視界に映し出されたのだ。


 アリアの内蔵センサーが冷静に告げる。

「高温警告。通常の範囲を超えています。」

 私は彼女の中で感じる焦りを抑えながら尋ねた。

「ちょっと待って、それって危険ってこと?」

「その可能性が高いです。蒸気管が破裂する危険があります。」

 アリアは冷静だったが、その声にはかすかな緊張が含まれているように思えた。

 私は思わず声を上げた。

 「じゃあ、早くここから離れないと!」

 アリアは即座に答える。

 「今は離れることよりも、状況を安定させることが優先です。安全な作業区域まで移動します。」

 アリアは冷静な分析を続けながら、蒸気管の近くから離れるべく行動を開始した。


しかし、その瞬間――


 轟音とともに目の前の巨大な蒸気管が破裂した。高温の蒸気が勢いよく噴き出し、視界が一瞬で真っ白に覆われた。金属の壁が崩れ、瓦礫が容赦なく降り注ぐ。

 私は息を呑みながら叫ぶ。

「これ、大丈夫じゃないよね!?」

「冷静になってください。次の安全ルートを計算中です。」

アリアは一切パニックに陥らず、次の行動を示してきた。

「どうやって瓦礫を避けるの?通路が塞がれてる!」

 私は叫ぶようにして訴えたが、アリアは落ち着いて答える。

「壁の一部が崩れている。その隙間から脱出が可能です。私を信じてください。」

「信じるしかないでしょう!」

 私は叫びながら瓦礫を押し退け、アリアが示した方向へ全力で進んだ。


 ようやく光が差し込む隙間が見えた。私はそこから這い出るようにして脱出した瞬間、大きく息をついた。夢の中なのに、まるで本当に命がけだったように感じられた。

 アリアの冷静な声が響く。

「これで安全です。状況を乗り越えました。」

 私は荒い息を整えながら声を絞り出す。

「君、いつもこんな危険な仕事をしてるの?」

「これは例外的な状況です。ただ、このような場合にも対応できるよう設計されています。」

 アリアは少し間を置いてから付け加えた。

 「君がいたから、より迅速に対応できました。」

 「それは…ありがとう。でも、なんだか不思議だね。私がいることで君が助かるなんて。」

 私は笑って言ったが、その中には深い感謝の念も含まれていた。


(了)

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