緊急会議

「遅くなって悪かったわね。それじゃあ緊急会議を始めましょう」


 会議室に入って早々、ジョリ社長は入り口に近い席に座った。


「はい」


「今日をもって『Blue Rose』は解散よ」


「はい。ええ!?」 


 普通に返事をしてしまった志乃が、思わず驚きの声を上げる。


「知っての通り、メンバー5人による熱愛スキャンダル発覚。それによってメジャーデビューの話はなくなり、当事者メンバーらは解雇。つまり『Blue Rose』から脱退したことになってるの。そして残っているメンバーは、あなたたちの3人だけ。だから解散することにしたの」


「でも、だからといって解散までしなくても。残った私たちで、また活動を続けたらいいんじゃ――」


「よーく考えてみて。8人もいた地下アイドルグループが、たった3人だけで活動してるのよ? 半数以上のメンバーがいなくなってるってことでしょ? えっ、ちょっと待って。冷静になって考えてみたら普通にこんなの緊急事態よね……」


「は、はい」


「だってメンバーが8人いたのよ……? そのうちの5人がいなくなるって……それも熱愛スキャンダルで一気に5人って……で、今たったの3人。……こんなことあるぅ!? なんで5人も同時にいなくなるのよ! 異常事態でしょうが!」


「いやジョリ社長が解雇したんですよねえ!?」


 両手で机をドン!と叩きつけるジョリ社長に対し、志乃は立ち上がってツッコむように返す。


「だいたいハルト君って誰よ!? あいつ、なん股してんのよ!」


「急になんの話!?」


「いや、ハルトの話はどうだっていいの! マネージャーよ、マネージャー! なーんで普通に担当アイドルと付き合っていたわけえ!? しかも何よ、あの泥棒猫! アタシが狙ってたのよ!?」


「だからなんの話――ね、狙ってたんですか!? ってそれも、いま関係ない話ですよねえ……!?」


「まあ、あのマネージャーも解雇したから、もうどうだっていいんだけどねっ。あんな男、こっちから願い下げよ!」


「願い下げって……告白もされてないのに……ってこれなんの話っ……!? 緊急会議するんじゃないんですかっ……!?」


 志乃とジョリ社長が話している間、みゆは心ここにあらずといった様子で、ただ一点をぼーっと見ている。


 そして二人の話を黙って聞いていた姫奈は、「志乃たん、大変そうだねぇ」と、マイペースに捉えていた。


「つまり何が言いたいかって言ったら、熱愛スキャンダルはもうたくさん! 二度と聞きたくもないわ!? 半数以上のメンバーが熱愛スキャンダルで脱退するなんて、こんな馬鹿げた話、聞いたことないわよ! 解雇だけでよく許されたわよ! 全くもう!」


「それは私もそう思いますけど」


「だから決めたの!」


「な、何をですか?」


「これからはあなた方に百合アイドルをやってもらうわ!」


「百合アイドル!?」


「そうっ、もう二度と熱愛スキャンダルを起こさせないためにねっ。それに会社のホームページには『Blue Rose』が解散することを掲載しちゃってるのよね。だからもう後戻りは出来ないってわけ」


「ええ……!? そんな……嘘でしょ……」


 志乃はショックを受けた様子で、ストンと椅子にへたり込む。


「ああ、それとね、すでに百合アイドルの新メンバーを募集してることも載せてあるの。仕事が早いでしょ? アタシ、ふふっ」


「はあ……話がついていけない……」


 得意気に話すジョリ社長に対し、志乃はため息をつき、頭を抱えていた。



「……百合アイドル」


 スマホの画面に表示された一部分の文面を読み上げ、一人のアイドルがニヤリと笑った。


 するとその時、楽屋のドアがノックされる。


――スタンバイ、お願いしまーす!


 スタッフの呼びかけに数人のアイドルたちが「はーい!」と元気よく返事を返し、楽屋から出て行った。


「ジュリー、早く早くー」


「あっ、はいはーい!」


 メンバーに急かされるように呼ばれ、ジュリは『百合アイドル、新メンバー募集!』と表示されたスマホの画面を消した。


「……今日で最後かな」


「んん? 何か言ったー?」


「ううん! ライブ、頑張ろうね! 行くよーん!」


「えっ? あっ、ちょっと待ってよー」


 楽屋のドアの前に立っていたメンバーは、急いでジュリの後を追いかけた。



「だからそんなに落ち込まないで。今日で『Blue Rose』は解散しちゃうけど、あなた方には百合アイドルがある。……そう! 百合アイドルが結成されたのよ! おめでとう!」


 ジョリ社長は立ち上がり、メンバーたちに拍手を送る。


「あの……そもそも百合アイドルって、なんなんですか……?」


 意気消沈している様子の志乃が、ジョリ社長に尋ねた。


「よく聞いてくれたわ。あなた方にはね、百合をコンセプトにしたアイドルをやってもらうの」


「百合をコンセプト……?」


「そうよ。百合アイドルによる、百合を見せる、百合好きのためのアイドルってわけ!」


「ちょっと良くわからないですけど……」


「だからね? これからは百合アイドルになるわけだから、あなた方は女の子が好きってことになるのよ」


「えっ……?」

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