ヌカ・コーラ・クロニクル〜失われたレシピ〜
湊 マチ
プロローグ 渇き
2287年、ウェイストランド。
かつてアメリカが誇った栄華は、今や瓦礫と化していた。
戦争が引き起こした終末的な混乱の中で、人々は希望を失い、喉の渇きと空腹を満たすことが生きるための唯一の手段となった。だが、どれほど乾いた喉を癒しても、心の中の渇きは埋められない。
そして、そんな世界で生きる者たちの間で、ヌカ・コーラは、もはや単なる飲み物ではなく、伝説の一部となっていた。
だが、それを知る者は、もう少ない。
アッシュ・コールマンは、スクラップハンターとしてウェイストランドを生き抜いてきた。どんな荒れ果てた場所でも足を踏み入れ、役立ちそうなものを掘り起こしては売りさばく。その生活は、荒れ果てた世界の中でも目立たないが、堅実なものであった。彼にとって、次の食料の確保と次の商売がすべてだった。
だが、今日だけは少し違った。
ウェイストランドの片隅で見つけたのは、古びたVault-Tecのホロテープだった。普段なら気にもしないが、このホロテープは何かが違った。
それは、Vault-Tecの技術者たちが作り上げた、特殊なデータバンクの一部が含まれていた。内容を確かめるため、アッシュはその場でホロテープを再生した。
「オリジナルヌカ・コーラのレシピは、ウェイストランドのどこかに保管されている。」
その一言が、彼の心を捕えた。
「ヌカ・コーラ…?」
ウェイストランドでのヌカ・コーラは、もはやただの飲み物ではない。昔の栄光を知る者がわずかに口にする、「本物の味」に対する憧れだけが残っている。その味を一度でも体験した者は、どんな粗悪品でも手に取ることができるわけがなかった。
だが、もし本物のヌカ・コーラのレシピが手に入れば、 その価値は何倍にも膨れ上がる。それを復活させることができれば、彼は一夜にして富を得ることができるかもしれない。さらには、伝説の飲み物を手に入れた者として、その名を知らしめることもできるだろう。
「これだ!」
アッシュは、自分の心の中で決意を固めた。そのレシピを手に入れることで、自分の未来を変えられる。あの、黄金色に輝く液体の味が、再びウェイストランドを席巻する日が来るかもしれない。
だが、このチャンスを狙っているのは彼だけではなかった。
数日後、アッシュは無事にホロテープに記されていたVault-Tecの施設へ向かうことを決めた。その場所は、ウェイストランドの中でも比較的安全な場所にあるとされていたが、立ち寄る者がほとんどいないという。それもそのはず、そこには危険なレイダーたちが潜んでおり、最近ではレイダーの襲撃が増えていることが報告されていた。
アッシュは、ヌカ・コーラを手に入れた者がどれほどの権力を持つかを考えれば、少しの危険はどうでもよかった。
それに、今の生活では生きるために何でもやるしかないのだ。
「ウェイストランドを変えるのは、この一歩だ。」
アッシュはその日、一人きりでVault-Tecの施設に向けて旅立った。
途中での出会い
アッシュが道を進む中、荒れた砂漠の中で彼女に出会った。彼女の名前は、エルシー・モーガン。年齢は不詳だが、身のこなしからして、戦前の社会でかなりの地位を持っていたようだ。彼女は、ヌカ・コーラに異常なほどの情熱を注いでいた。
「ヌカ・コーラを復活させなければ、ウェイストランドに希望はない。」
彼女は言った。「それが私の使命だ。」
その言葉に、アッシュはただの飲み物にこれほど強い信念を持っていることに驚き、同時に、彼女が持っている知識と経験に魅かれた。
「本物のヌカ・コーラを復活させるのは、無理かもしれない。」
エルシーは続けて言った。
「でも、もし手に入れたら、私たちが一緒に作り直すのだ。これがウェイストランドを生き抜くための力になる。私もその一部になりたい。」
アッシュはその目を見て、彼女がどれほど本気かを感じ取った。彼女もまた、**ヌカ・コーラに込められた「希望」**を信じていた。
こうして、二人は手を組むこととなる。
ヌカ・コーラを巡る争い
アッシュとエルシーがVault-Tecの施設に近づくにつれ、ヌカ・コーラを巡る争いが激しくなる。
彼らが発見した情報によると、この施設にはレシピの他にも、ヌカ・コーラに関する極秘技術が大量に眠っているという。
それは、ただの飲み物のレシピではない。放射能耐性や人間の生存能力を高める技術が隠されていたのだ。
その秘密を守ろうとするブラザーフッド・オブ・スティールが迫ってくる。彼らはこの情報を軍事利用し、再びウェイストランドの支配を狙っている。
また、ヌカ・カルトが彼らの行く手を阻もうとし、アッシュたちを執拗に追い詰める。
だが、彼らにはまだ一つの希望があった。
それは、レシピの隠し場所を知る唯一の手がかりが、Vault-Tecの地下施設の中にあるということだった。
結末へ向かって
最終的に、アッシュとエルシーはレシピを巡る戦いの中で、「ヌカ・コーラの未来」に関する選択を迫られることになる。
レシピを復活させ、新たな時代の象徴とするのか。
それとも、秘密を封印し、過去の過ちを繰り返さないようにするのか。
選択がウェイストランドを変える――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます