ワーカホリック聖女様は働き過ぎて強制的に休暇を取らされたので、キャンピングカーで静養旅にでる。旅先で素敵な出会いもある、、、かも?

永倉伊織

第1章 休暇は突然に

プロローグ

中央大陸には、名も無き神にして唯一の神、『創造神』を崇める神聖十二王国がある。


神聖十二王国がある中央大陸は、元々は別々の小さな十二の国があったのだが、北方の大国『モノフルオール帝国』に対抗する為に、十二の国々が一致団結し出来たのが神聖十二王国である。



神聖十二王国の聖都にある神殿には十二人の聖女が暮らし、日々創造神に祈りを捧げ、神の言葉を市井の人々に伝える代弁者として生活していた。


そんな神殿の中庭で、魚を冠するピスケス領から選ばれた聖女メルクリースが散歩をしている。


メルクリースは薄い水色の髪に蒼い瞳が特徴の20歳の女性だ。



「ニャンッ」


「ネコさんネコさん、もし暇でしたら私の相手をして下さいな。行きますわよ、ぷぅ!」


「・・・」


「むむむっ!」


「・・・」


「むぅ!」


「ニャゥ(汗)」


「うふふ、私の勝ちですわね♪」



突然メルクリースにじっと見詰められた黒猫は耐えきれずプイッと視線を逸らすと、無邪気な笑顔のメルクリースに抱き抱えられた。


メルクリースは特に何も考えず、たまたま遭遇した黒猫とにらめっこをして遊んでいただけなのだが、じっと見詰められるのが苦手な黒猫の立場からすれば迷惑以外の何物でも無い。


とは言え、黒猫もメルクリースに抱き抱えられて満足げな表情で大人しくしているあたり、メルクリースに心を許している証拠である。


この黒猫、3ヶ月ほど前から神殿に住み着いているのだが名前はまだ無い。


黒猫を見た聖女達が各自自主的に黒猫の名前を考えて来てしまったのが原因だ。


普通なら自分の考えた名前を黒猫に付けようとして揉める所なのかもしれないが、そこは神に仕える聖女達


自分で考えた名前よりも他の聖女が考えた名前こそが相応しいと全員が譲り合ってしまい、いっこうに決まらず黒猫は未だ名前の無いまま、『ネコさん』と呼ばれるに至っている。



メルクリースが黒猫を抱えたまま散歩を再開すると、水瓶を冠するアクエリアス領から選ばれた聖女ケレースが礼拝堂から出て来てメルクリースを見付けると、小走りでやって来た。



「神託の間に集合よメルクリース、急いで!」


「はい!」



神託の間とは、創造神からの言葉を聞く部屋の事である。


創造神からの神託は1ヶ月に多くて2回程度、今月は既に2回神託が行われている為、3回目の神託は少々異例と言える。


ケレースとメルクリースは災いが起こるのを教える神託で無い事を祈りながら神託の間へと急ぐ。



「ケレースにメルクリース、入ります。」



ケレースとメルクリースが神託の間に入ると、部屋の中央に置かれた太陽を模した黄金色に輝く拳大の宝石が立派な台座の上に鎮座している。


その黄金色に輝く宝石のまわりを、ケレースとメルクリースを除いた10人の聖女が所定の場所に座り祈りを捧げている最中だった。



「ケレースにメルクリース、早く座りなさい。神託を受けますよ」


「「はい」」



神託の間に入って来た2人に座るように促したのは、聖女達のリーダー的存在、天秤を冠するライブラ領から選ばれた上級聖女ユピテル、39歳。


ユピテルは右目が金色で左目が銀色の、オッドアイと呼ばれる左右異なる瞳の色をしており、肩まである銀髪を頭のうしろでひとつに束ねた落ち着いた雰囲気のある女性だ。



「皆さん準備は良いですね?創造神様から神託を受けます。」



ユピテルがそう言うと、12人の聖女達は目を閉じる。


次の瞬間、黄金色の宝石がより一層輝き部屋の中を明るく照らす。



【聖女メルクリースは働き過ぎの為暇を出します。故郷に帰りゆっくりと静養しなさい。】


「・・・は?」



思わずマヌケな声を出してしまったメルクリースを、いったい誰が責められるだろう?


今までの神託は、長雨になるだとか、猛暑に注意せよ、だとか


時には聖女達の願いを聞き届け、日照り続きの土地に雨を降らせる事もあったのだが、創造神が個人を名指しで神託を授ける事は初めてだった。


残りの11人の聖女達もなんとか声を出さずに堪えて、メルクリースを見詰めている。



「えーーっと、皆様にも神託が聞こえましたでしょうか?」


「はっきりと聞こえました。ただ、創造神様から直接メルクリースに暇を出すというのは、何か特別な意味があるのでしょうか?」



メルクリースの問いかけに最初に応えたのは、射手を冠するサジタリアス領から選ばれた聖女ミネルバ



「創造神様から静養を勧められたという事は、メルクリースは聖女としての力が弱まっているのでしょうか?」


「もしかして聖女の力というのは、定期的に故郷の大地から力を補充する必要があるのではないかしら?」


「聖女の力を補充しなければいけないほど弱っているのなら、聖女として御役御免となるのでは?

今までの聖女も数年で御役御免となった方は居るのだし」


「とにかく、創造神様の御意思はメルクリースの静養です。メルクリースは帰郷の準備をするように」


「はい」



ユピテルがそう告げると、メルクリースは渋々と言った感じで返事をする。


メルクリースは聖都や神殿の暮らしが気に入っていたのだが、創造神から直接静養するように言われては断る事など出来はしない。



だがしかし


神託をした創造神は


たとえメルクリースが神託を無視しても、神域にメルクリースを連れてきて、自分が直接癒してあげればいいや♪くらいの軽いノリだったのだが


それを聖女達に教える事を思い付かない、すこーしだけおっちょこちょいな創造神なのだった。


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