薔薇園君と百合原さん

ヘッヘブーン

薔薇園の日常

 俺の名前は薔薇園ばらぞの じゅん。放課後の教室で唯一の親友の攻田せめだ 攻太郎こうたろうと、2人で勉強をしているふりをして秘密の会話を繰り広げている。

「俺は今、叶わない、いや、叶えてはいけない恋をしている。そう、百合原ゆりはら きぬさんにな。」

「おう、知っとる。」

「それのせいで俺は今、喜怒哀楽の喜と哀と楽と怒の感情を持ち合わせている。」

「なんで分けたん?」

「いやな、俺は生で百合が見れて嬉しいっていう気持ちと、この恋を叶えてはいけないという哀しみと、これからの彼女たちの恋路を追えるという楽しみと、残酷すぎる運命に対する怒りが混濁して感情のスムージーになってるんだ。」

 そう、百合原さんは俺たちと同じで、いつも放課後に教室に残りクラスメイトである受園うけぞの 受子うけこさんと一緒に勉強しているのだ。正直その名前は親の正気を疑った。それは置いといて、一緒に勉強してるだけなら俺は百合なんて言わない。しかーし!あの距離間は!完全に!デキてる!デキてるとは言わずとも、確実に好意があるはず!

「俺の百合サーチアイ、通称「夢」はごまかせない、ZE。」

「ダサいなそれ。あとなんで分けたん?」

「告白するならどっちからだと思うよ?」

「なんで分けたか聞いてんねんけど。」

「どっちだと思う?」

「いやだから」

「なぁなぁ。」

「…百合原さんやな。」

「なんで?」

「受園さんの名前的に。」

「確かにな。」

「おん。」

「いや、じゃなくて、もっとなんかあるだろ。」

「なんで分けたか教えてくれたら答えたる。」

「意味なんかねぇよ。」

「ほーん…そっか。ほら、受園さんって普段から相手から話しかけられんと話さんやろ。」

「単純だな。さすが単細胞。」

「俺、中間テスト学年10位やで。230人中。それに引き換えお前は200位。どっちが単細胞なんやろな。」

「そうやってすぐにマウント取ろうとするとことか如何にも単細胞だよな。」

「は?」

「……ここ教えて。」

 さっきは勉強してるふりと言ったが、最近は本当に勉強をしている。なぜなら俺が留年の危機だから。こんなはずじゃなかったのに。

「なんでこれ分からんでこの高校はいれたんや?こんなん初歩も初歩やろ。」

「別にここ偏差値高いわけじゃないだろ。それに、あの2人を見てたら勉強なんてできるわけないだろ。」

「じゃあ帰ってやるか?」

「何馬鹿な事言ってんだ?お前はそれでいいのか?あの尊いを見たくないのか?」

「…しゃあないな。」

 そんなことを話してると....。

「お!きたきたきた!」

 受園さんが身を乗り出し、百合原さんの耳元で何か言っている。話し終わったと思ったら...。

「百合原さんのほっぺ赤いぞ!」

「一体何を言ったんや…。えらい赤なって…。」

「何言ったらあんな赤くなるんだ?告白か?」

「いやちゃうやろ。」

「じゃあ何?」

「うぅ~ん…。」

「おい、なんかこっち見てるぞ!」

「やば、勉強すんで、勉強。」

 ふふ、いいもん見れたぜ。これで明日も生きていける。あ、この問題分からん。

 キーンコーンカーンコーン。

「あ、もう下校時間や。」

「なんか、意外と勉強集中して勉強したから、なんだかんだすぐ終わっちゃうよな。」

「さっき集中できんみたいなこと言っとったんは誰や?」

「いや、なんかあの2人の勉強してる姿見て、こっちもやらなきゃなーってなったんだよ。」

「ま、勉強するんはいいことやからな。」

「今日どうする?久々にコンビニ以外も寄ろうぜ。」

 流石の俺でも尾行はしない。そこまでプライバシーに踏み込むつもりはない。それに、次の日学校でそわそわしてたりする2人をを見る方が想像が膨らんで楽しい!

「せやな。ス○バでも行こか。」

「それどうやって発音してんの?」

「いや、○やで、○。ほら、やってみ。」

「今の口の動きキモ過ぎるからやだ。」

 よし、明日こそ勉強なんかに集中せず百合を見るぞ~!















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