扉の前

元気モリ子

扉の前

ミステリアスで居たいなら黙っていれば良いものを、私は何でもべらべらと話してしまう。


「何を考えているのかわからない」などと言ってもらえる日には、本当に何も考えちゃいないし、言わなくて良いことまで言って、その場を一通り凍りつかせてしまう。

しかし、めげない。

頼むからめげてくれ。



皆それぞれ少なからず「心の扉」というものがある。

もしそれを実際の扉に例えるなら、どういった扉であろうか。


分厚い一枚扉

ガラス製の開かずの扉

めちゃくちゃ小さい勝手口


様々な扉がある中で、私は恐らく「数万枚の自動ドア」といったところである。

相手が根気強く扉の前に立ち続けてくれさえすれば、どこまでも入って来られる。

何でもべらべらと話してしまう所以はここにある。


はじめましての相手と話す際、私は「この人の心の扉はどんなだろう!」とワクワクする。

まだ見ぬ扉に出会えるかもしれないからだ。


バリアフリーのスロープを悠然と登り、扉の前まで来て突然閉め出されたり、一見難解なデザイナーズドアだと思い押してみたら、案外簡単に開いたり、開いたと思ったら奥にとんでもなく分厚い南京錠付きの扉があったりと、本当に面白い。

反対にペラッペラのラップのような扉に出会った日には、「用心なさいね…」と声を掛けたくなったりもする。



以前、全く気が合わない犬と二人切りにされたことがある。


向こうはチワワで、体格は私の方が何倍も大きいのに、瞳だけは向こうの方が大きかった。

改めて文字にすると、より一層悔しさが増す。


断っておくが、私は無類の犬好きである。

ただその子と気が合わなかっただけである。


紹介された時から、何だか気が合わない気がしていた。

互いに笑顔らしきものだけは浮かべて、大きな目をギョロリと横にし、様子を伺っていた。

私は元から子どもにも動物にも大して好かれないので、動物には基本的に敬語で話す。


「はじめまして、こんにちは」

「今は何をされているんですか?」

「私に何をして欲しいですか?」

「かわいいですね」


全無視である。

いつものように心の扉を少しでも開こうと試みるが、そもそも扉の所在が分からない。

所在が分からないことには、ノックをすることさえできない。

とはいえ、本人からの許可を得ていないのに、急に体に触れることは憚られる。


そしてそれは逆も然りであった。

待てど暮らせど、私の扉の前には立ってくれない。

「手を近づけてください」のセンサーに手をかざしてくれないことには、こちらも開くことができない。

結果、私までどんどんと心を閉ざしていった。


二人切りの空間で、一度も交わることなく、互いに歩み寄ることもなく、別れの時はやってきた。




あの犬と二度と会うことがないと思うと、私は未だに心がくぅ〜…となることがある。


扉の前まで行って、「立ち入り禁止」の張り紙を確認してから引き返すのと、扉を探しすらせずに諦めるのとでは、全く意味合いが違う。


そもそも私が建て付けている自動ドアというのは、一見スムーズに出入りができるように見えて、実は相手の能動性にかかっている。

そのため、向こうが私に関心を持ってくれないことには、心の扉が開くことはない。

なんともまぁ女王様である。

あのわんこの心の扉を、私がもっと探し回るべきだったのだ。


なんでも人のせいにしていると、独りぼっちで長生きする羽目になる。

たくさんの人と出会って、話しをして、たくさんの扉を見つけたい。

入ってくれるなと言うならもちろん入らないし、でも扉の前まではきちんと行きたい。


そんなことを夜中にひとり考えては、腹が減る。

冷蔵庫に何か食べられるものはないかと泥棒のように漁りながら、「私は妖怪冷蔵庫漁り!ひっひっひ!」などと小声で言ってみたりもする。

なかなか愉快だ。


どちらからでも開けられる冷蔵庫の扉は良い。

右利き左利き関係がない。

いつか心の扉を取り替える時のために、これも候補に入れておこうと、私は思った。



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扉の前 元気モリ子 @moriko0201

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