【六年ぶりに幼馴染と再会したら、なぜか同棲と猛攻が始まった。】SS『後悔の夢と陽だまりの微笑み』
あすれい
第1話
本編はこちら https://kakuyomu.jp/works/16818093087684972804
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
「っ?! ……また、この夢か」
布団を跳ね除け、飛び起きた。寝間着は嫌な汗でじっとりと湿っている。
里桜と再会してから、たびたび見る夢。
最初は起きてすぐに忘れてしまったが、2回目に見た時にはっきりと思い出した。それから、俺はその夢を見た回数を数えている。
この夢は、里桜と疎遠になった時の後悔の記憶。
『もう里桜なんてどこへでも行っちゃえよっ!』
おじさんの仕事の都合で遠方への引っ越しを余儀なくされた里桜に、俺が言い放つ。
そして、
『隼くんのバカっ! 大キライっ! もう知らないっ!』
里桜は悲痛に顔を歪ませ、泣きながら去っていく。
夢の中では、まるで戒めのように同じシーンばかりが繰り返されていた。里桜を泣かせた俺が許されるわけがない、そう言われているようで。
でも、この夢を見るたび、回を重ねるたびに変化もあった。
それは、背景。口論する俺と里桜の後ろに見える空模様、天候だ。
最初に見た時は、雷雨だった。
雨は激しく地面を打ち、風は激しく吹き、雷鳴が轟いていた。
2回目は、雷が止んだ。
相変わらず雨風は激しかったが、不気味に鳴り響いていた雷の音は聞こえなくなっていた。
3回目は、風が穏やかになった。
4回目以降は、徐々に雨足が弱くなり、7回目でついに雨は完全に止んだ。
8回目には、雲が薄くなり、そして今回、9回目で、雲を裂いて幾筋かの光が地上を照らした。
俺自身、心理学や夢占いなんかに精通しているわけではないので、その意味するところは全くわからない。
ただ、変化を変化として認識するしか──
「隼くーんっ、朝だよーっ! って、あれぇ?」
勢いよく部屋のドアが開いて、里桜が顔を覗かせた。
「っ?! ……り、お?」
まさか、もう里桜が起こしに来る時間になっていたとは。見てしまった夢のせいで、いつにも増して気まずい。目を合わせることなんて、とてもじゃないけどできそうにない。
でも里桜はそんな俺に構わず、ペタペタとスリッパを鳴らしながら部屋へと入ってくる。
「うん、里桜だよっ。どしたの? まだ寝ぼけてるのかなぁ? というか、隼くんが先に起きてるなんて珍しいね?」
「あぁ、うん。たまには、な……」
「ふぅん、そっか。そうだよね、そういう日もあるよね。……けど、どうせなら私が起こしてあげたかったなぁ」
「なんでだよ……?」
里桜の言っていることの意味がよくわからない。俺が一人で起きた方が、里桜の負担は少ないはずなのに。
「ふふっ、なーいしょっ!」
またこう言う。里桜は肝心なことをなにも教えてくれねぇんだ。
「さーてっ、隼くんが起きたなら、私は朝ご飯の準備に戻るね。言っとくけど、二度寝は厳禁っ、だよ?」
「わかってるって」
二度寝をするとどうなるのか、俺は身を持って知っている。
布団を引っ剥がされて、馬乗りになった里桜に頬をムニムニされるんだよな……。
そんな状態でお説教が始まるわけだ。
『隼くんが起きてこないと朝ご飯食べられないでしょー? 私は隼くんと一緒に食べたいのにぃっ!』
ってな。
顔を背けることすら許されず、視線を逸らすと思いっきり頬を抓られる。
心が千々に乱れる、地獄のような時間だ。
「あっ、そうだっ」
部屋を出る間際、里桜が振り返り、
「おはよっ、隼くんっ」
太陽のように明るい笑顔が向けられた。
また、チクチクと心が痛む。
「うん……おはよ」
「えへへ。それじゃ、隼くんが来るの待ってるね」
今度こそ、里桜は部屋から出ていった。
俺は一人、痛みに耐えるように身体を丸める。数分ほどそうしていると、どうにか痛みが引いていって──胸の内がわずかに温かいことに気付く。
「なんなんだよ、これは……」
その正体が分からずに、俺はただただ混乱していた。
***
夢の変化の理由が判明したのは、里桜と仲直りを果たした後のことだった。
と言っても、あくまでも俺の憶測だけどな。
里桜はその笑顔でもって、俺の後悔を少しずつ溶かしてくれていたんだ。
『もう忘れていいんだよ。私はとっくに許してるんだから』
そんな想いを、言葉ではなく、態度で示していた。俺は、無意識にそれを感じ取り、夢に反映させていたってのがどうやら事の真相らしい。
そしてその後は例の夢を見ることはなくなり、その代わりに、
『隼くんっ、ずーっと一緒だよっ』
陽だまりの中で微笑む里桜が現れるようになるのだった。
【六年ぶりに幼馴染と再会したら、なぜか同棲と猛攻が始まった。】SS『後悔の夢と陽だまりの微笑み』 あすれい @resty
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