あの夢

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 変わった夢ならば、見慣れている。私はシャーロック・ホームズ式に、客の品定めをしていた。そう、間違いなく客であろう。

 でなければ、きっかり同じ時刻に、家の前でうろうろしている道理がないからだ。

 同居人の息吹いぶきは訝った。

「ねえ、あの人、お客さんじゃないの?」

 私は、偉ぶった。

「それはそうだろうさ。しかし、あの御仁は、まだ私に依頼をしていないからね。したがって、正式な客ではないのさ」

「屁理屈……」

 息吹は、肩を落とした。気を取り直し、背後で手を組み身体ごと向き直った。

「ねえ、実範みのり。僕にする? それとも、僕にする?」

「日本語能力が死んでんのか、お前は」

 キャッ。息吹は赤らめた頬を手で覆った。

「ごめんなさい。ご飯の後のデザートか、お風呂上がりのデザートか。さあ、どっちにする!?」

「アイスか何かなの、君は」

 ふふふ。息吹は背後から抱きつき、首に手を回した。耳をなめてきたので、熊撃退用の唐辛子スプレーをかけてやった。

「目が! 目が!」

 床でのたうち回っている。※決して真似しないで下さい。

「フッ。お前にはその姿がお似合いだな」

 側を素通りして、ドアを開けてやる。

「そこの君。もしかして、私に用かい? もし、君が客ならば、私が十数えるうちに室内に入りなさい。いーち……」

 セーラー服着た娘は怯えていた。一瞬で理解し、ダッシュする。もちろん、床で転がっていた物体に足を引っかける。スカートがふわっと舞い上がる。しばらく、二人して号泣していた。

 それぞれ腕を引っ張り上げて、長椅子に座らせる。

「ほら、オレンジジュースだ。飲みなさい」

 私も、腰かける。

「悪かったね。私も、君には気付いていたよ」

 セーラー服の娘が、ちらっと視線を上げる。

「少々、仕事が立て込んでいたのでね。君がここまで来ないのを口実に、後回しさせてもらっていたんだ。大丈夫、無視してないからね」

「ああ……」

 セーラー服の娘は、泣き崩れた。

「私も、最初はそう考えたのです。何せ此岸でも彼岸でも人気の画家だそうですから。でも、その……。お声が聞こえてきて、私……」

 私は、息吹を見た。やつは、舌を出した。

「その、お二人は恋人だそうですから、そういうことは自然なことです。私、私……」

「うん、解った。黙りなさい」

 強制的に口を塞ぐ。娘はコクコク頷いた。





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