28 突破口
「君が僕らを監視していたのは、そういう理由か……」
初めは戸惑ったが、ようやくわかってきた。ここで子どもたちが武装する理由、貴族や聖騎士を嫌悪している理由。
この街にはいつからかレジスタンスが組織され、高位の貴族を憎む土壌があった。子どもたちも犠牲者たちの子どもや親戚だったのであれば、大人たちから少なからず影響を受けているだろう。
さらに【黑妖】襲来で、貴族や聖騎士は誰一人救援に来なかった。……気づいていないのか無視をしたのか――いずれにせよリーゼラは見捨てられ、一か月でこの寂れようだ。
万民を助け救う。そのお題目を唱える聖騎士が、誰も助けてくれなかったのだとすれば、彼女らが、冷たい態度になるのも無理はない。
「あの……聞いて、シシィ。リリオは誇り高き聖騎士なの。それはわたしが保証する。実際、リリオは命懸けでわたしを助けてくれたこともあるわ」
「恋人の言なんて信じないわよ! 下心から助けただけかもしれないでしょ⁉」
シシィの叫び声はまるで悲鳴のようだった。
「……貴族はこの聖騎士みたいに優しい顔をして近づいてきて、気を許した途端に酷いことをするのよ。どいつもこいつも皆同じ。平民のことなんてどうだっていいのよ。……あいつら、わたしたちを同じ人間だなんて思っていないんだ」
悲痛な声で言うシシィは真っ直ぐにリリオを睨んでいる。……聖騎士を嫌っているのであれば、こうやって相対するのもさぞ怖くて、嫌だろうに。
「……。わかった」
突然、ぽつりとそう言ったリリオに、シシィが怪訝そうに眉を寄せた。
「な、何がわかったって言うのよ……」
「もしもまた、【黑妖】の襲撃があった時は、僕は全力で、命を懸けてこの集落の人々を護る。君も含めてだ。僕は優秀な聖騎士とは言えないけど、精一杯のことをする」
「は、はあ……⁉ いきなりなんなのよ、そんな話……。貴族も聖騎士も信じられないってあたしの話、聞いてなかったの⁉」
「聞いてたよ。でも僕は――聖騎士であることにも貴族であることにも誇りを持っている。聖騎士長に憧れ、聖騎士として民を救い、人を救う……そうやって生きていこうと思って、必死に修業を続けてきた」
聖騎士だから、貴族だから。そうやって人を一括りするのは簡単だ。
聖騎士であるなら聖騎士長のように人を救うことに誇りを持ち、高潔に生きていくべきで、また、それが当たり前だと考えていたつい最近までのリリオのように。
――ただ、
「だからこそ、君に認めてほしいんだ。貴族も聖騎士も信用ならない奴ばっかりじゃないんだってね」
聖騎士や貴族に平民を差別し一切顧みないような者がいる一方で、聖騎士の在り方に理想像を持つリリオが、憧憬や敬慕の念を抱くような高潔な騎士もいる。
少なくともリリオは聖騎士長や家族を手本に、聖騎士や貴族の掲げる『建前』に相応しい自分であるように、生きてきたつもりだ。
「――本当ね?」
シシィは低い声で問うた。「本当にいざという時、あんたはあたし達を助けてくれるのね」
「必ず。そもそも僕にとっては、聖騎士が民を守るのは当前のことだ」
そう、とだけシシィは言った。
それからちらり、とすぐそこにある『的』を見る。
「……じゃあ、それは何? あんたたちが昨日から二人で逢い引きしてるのって、それに関係してるの」
「逢いっ……いや、まあ、そうなんだけど」
この『的』を使い、アイリスと二人修業をしていたのは事実だ。
「あの……わたし、火魔法の属性を持っているの。でも全く使いこなせていなくて……だから彼と魔法を練習していて」
「本職の聖騎士が? 直々に魔法を教えてるの?」
「そ、うなの。でも全く上達しないわ。せっかく教えてもらっているのに……」
「……まあ確かに、中途半端な焦げ方してるわよね」
シシィは的である藁の一部を拾い上げると、ませた言い方で切って捨てる。アイリスが小さく呻いて肩を落とした。
「あたしは平民で、魔力が少ないからろくに魔法は使えないんだけど、イリスもそうなの?」
「あー、イリスは魔力は足りてるんだ。けど、どうしても初級魔法がうまく発動しなくて」
どうして出来ないのかがわからない。やはり、それが最も大きな問題だ。
一言で魔力を制御せよと言っても、魔力の流れは人によって異なる。無闇にコツを教えると逆効果になる可能性もある。
「ふーん。ならさぁ……」
シシィが藁を投げ捨て、リリオを見た。
「こんなふうにチマチマ初級魔法を試してるんじゃなくて、一発どかーん! って大きい魔法使ってみればいいんじゃない?」
「えっ?」
「だって、同じ魔法ばっかり練習続けてるだけじゃつまんないじゃない。あたしだってフェリペ先生とかに勉強を教わってる時、どうしても解けない問題があったら、とりあえず他の問題をやってみたりするもん。そしたら、しばらしくしてからその出来ない問題に戻ってきたとき、意外と簡単に成功したりするのよね」
「……!」
シシィの言葉に、リリオとアイリスは顔を見合わせる。
「……イリス、魔力はまだ?」
「ええ。多分、余裕があると思います」
考えていることは二人とも同じようだった。
頷き合い、そして――。
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