【異星人外交官】薄い訪問者

ロックホッパー

 

【異星人外交官】薄い訪問者

                          -修.


 「所長、すみません。起きてください。新たな異星人が現れました。すぐに管制塔へ来てください。」

 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と異なる異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。管制塔の地下の宿直室で仮眠していた所長は部下からの連絡で早朝に叩き起こされた。

 「分かった、すぐに向かう。いったい、どこから来たんだ。」

 「分かりません。ちょっと事情が複雑ですので管制塔でお話します。」

 「そうか。」

 所長は最低限の身支度を整え、管制塔へ走った。


 所長が管制塔に到着すると、担当者がディスプレイに表示された巨大な宇宙船の画像を見ながら何か悩んでいる様子だった。

 「どういう状況だ。」

 「それが、10分ほど前に突然、発着床に宇宙船が現れたんです。」

 「『突然』とは、どういうことだ・・・」

 「それが、何の前触れもなく現れたんです。現れる前のビデオ映像を何度も確認しましたが、現れる1つ前のコマには何も写ってないんです。フレームレート120もあるのに・・・」

 「着陸する瞬間が捉えられていないということか。だとしても、着陸の際、宇宙船で押しのけられた空気で爆発音がしそうなものだが・・・」

 「そういったものも全くありませんでした。」

 「うーん、そうか。まあ、出現の仕方は謎ということだな。では、宇宙船の大きさは?」

 「はい、横幅100m、高さ20mなのですが、下のほうの3mくらいが発着床にめり込んでいるようでして・・・」

 「めり込んでいる・・・?」

 所長が改めて宇宙船の画像を確認すると、確かに宇宙船の下部が発着床より下に入り込んでいる。土を押しのけた様子はなく、着陸床が途中から宇宙船になっていた。

 「これは分からないな。」


 担当者が申し訳なさそうに付け足した。

 「所長、もう一つ謎がありまして・・・」

 「なんだ?」

 「宇宙船の長さが計測不能なんです。いや、正確に言うと厚さが0みたいなんです。」

 「はぁ?」

 「所長、カメラを順番に切り替えていくんで見てください。」

 担当者はコンソールを操作し、発着床のカメラを次々と切り替えていった。すると、正面から見えていた宇宙船が、側面に回り込むにつれてだんだん細長くなっていき、ほぼ真横から撮っているカメラでは線のように見えていた。

 「どういうことだ?」

 「書き割りみたいなもんですかね。」

 所長は唖然として画像に見入っていた。

 「所長、よく見ていてください。今度は宇宙船の後ろからの画像です。」

 ディスプレイには正面からの画像とは違う、後ろから見た宇宙船の画像が映っていた。

 「後ろから見ると、宇宙船の後が見えるということか?厚さは0なのに・・・。さっぱりわからないな。」

 所長も担当者も頭を抱えた。異星人外交官の仕事は、表敬訪問してきた異星人とのファーストコンタクトなのだが厚さ0の宇宙船から何が現れるのか、いや、そもそもこの宇宙船は本当に発着床に着陸しているのだろうか。映像だけなのではないだろうか。


 外交官たちの心配をよそに、宇宙船からタラップが下ろされ、地球人とよく似た外見の異星人が降りてきた。とはいっても、書き割りの中に現れただけで、横から見ると幅は相変わらず0だった。そして、どうもこちらに歩いてきているようで、徐々に画像が大きくなってきた。

 「所長、こちらもエージェントロボットを出します。しかし、果たして会話に進むんですかね。」

 こちらからは異星人の画像が見えているだけで、もし実体がないとすると何らかの音声や信号を発することは無理だと考えらえた。


 しかし、外交官たちの心配は杞憂に終わった。突然、宇宙船の前方が開いてディスプレイと思われる平板が出てきた。そしてそこには、自然数の表現から始まる言語体系の説明が開始された。それは地球側が理解できるものであった。画像でしか対話ができないことは異星人も理解していたようだ。


 言語の理解に数日を要したのち、異星人の説明によると、異星人は通常空間とは次元がずれている三次元空間に存在しており、通常空間では平面として投影されるということだった。異星人は銀河連邦からこの宇宙港の座標を聞いて、自分たちの座標に変換した上で来訪したとのことだった。


 異星人外交官はこの薄い異星人との対話には成功したものの、それはお互いに決して接触することのできないファーストコンタクトだった。


おしまい

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