事故物件

啄木鳥

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。




 ・1回目の夢

 私が一人で知らない道を歩いていると、一人の少年が私の服の裾を小さく掴んでクイッっと引っ張り、無言で私の顔をじっと見つめていた。


 私が何かを言おうとしたところで夢から覚めた。


 いつもと同じ時間に目が覚め、寝つきも良かった。



 ・2回目の夢

 また私が知らない道を歩いていると、今度は少年と、少年より少し年上であろう少女の二人が私の服の裾を小さく掴んでクイッっと引っ張り、無言で私の顔をじっと見つめていた。


 少し変に思った私は二人の顔をじっと見る。すると、どこか違和感を感じた。


 そこで、夢から覚めた。



 ・3回目の夢

 また知らない道に私は立っていた、三回とも違う道だった。


 今度は歩かずに立ち止まってみることにした。すると、後ろから急に肩を掴まれる。服の裾を掴まれる感覚もあった。


 振り返ると、前の夢に出た少年少女に加えて三十歳くらいの男性が私の肩を掴んでいた。


 私は少し気味が悪くなったので掴まれていた手を振りほどいた。


 そこで、目が覚めた。



 ・4回目の夢

 今度は、知っている道に立っていた。私が通っている大学の近くの道だ。


 私は嫌な予感がしたのですぐに後ろを振り向く。前の夢に出てきた人たちが私から二メートル離れたくらいの場所に立っていた。


 私はさすがに恐怖を感じ、全速力で走って逃げた。


 そこで、目が覚めた。



 ・5回目の夢

 今度は、私がたまに夕食を食べるために利用しているファミレスの近くの道に立っていた。


 私はすぐに後ろを振り向く。前の夢に出てきた人たちに加え、三十歳くらいの女性が五メートルほど離れた場所から私のことを見ていた。


 私は逃げた、全速力で走った。


 走りながら後ろを振り向くと、四人がゆっくりと歩いてこちらに向かっていた。


 そこで、目が覚めた。



 さすがにおかしいと考えた私は、大学の友人にこれまでのことを相談してみた。


 最初は真面目に話を聞いてくれなかったのだが、話を続けるうちに私の真剣な様子に気が付いたようで、その日からしばらく友人が借りているアパートに泊めてもらうことにした。



 ・6回目の夢

 友人のアパートに泊めてもらった日の夜。


 次は、私がよく買い物をしているスーパーの近くの道に立っていた。


 後ろを振り返る。前に見た四人がすぐ後ろにいた。


 肩を掴まれる、服の裾を掴まれる。私はその手を振りほどいて、必死に走って逃げた。今回は、掴む手の力が前より強くなっていた。


 走って、走って、走って、振り返ると、四人も走って追いかけてきていた。


 私はさらにスピードを上げて走った、死に物狂いで走った。


 体力がだんだんとなくなって、走るスピードが遅くなってきている。


 そこで、目が覚めた。


 なぜか、肩に痛みを感じた。



 友人に今回の夢のことを話し、これは自分たちでどうこうできる問題ではないと考えた友人は、知り合いだという寺の息子に相談してくれた。


 話を聞いた寺の息子はすぐに父である住職に話をつけてくれ、私はその住職に話を聞いてもらった。


 私の話を聞いた住職は「かなりまずい状況にある」と言い、その後「その悪霊を祓うための準備に二日はかかるので、とりあえずはこのお守りを持っていなさい」と普通のより二回りほど大きく、『守』と大きく書かれたお守りを手渡された。



 ・7回目の夢

 今度は、私が住んでいるアパートに近くにある幼稚園の近くの道に立っていた。


 だんだんと私が住んでいるアパートに近づいている気がする。


 後ろを振り返る前にかなり強い力で肩を掴まれる、服の裾を掴まれる。振りほどこうとするが、力が強くて振りほどけなかった。


 その時。


 ビカッと私の体が強く発光して、それと同時に私のことを掴んでいた四人の手が青い炎に包まれた。その炎に熱は感じられなかったがその四人は悶え苦しんでいた。


 私は手を振りほどいて、全速力で逃げた。


 そこで、目が覚めた。



 目が覚めると、両手で強く握っていたお守りが焼け焦げてぼろぼろになっていた。


 そのことを住職に話すと驚いたような表情を浮かべた後苦い顔をしてギリッと歯を鳴らし、今晩はこの寺に泊まるように言われた。


 

 ・8回目の夢

 私が住んでいるアパートの目の前にある道に立っていた。


 瞬間、強烈な痛みとともにすさまじい力で肩と服の裾を掴まれ、そのまま引っ張られる。アパートに向かっているようだった。


 抵抗しようと暴れるが、四人が引っ張る力が強すぎてまったく意味をなさなかった。しかし、それでも私は必死に抵抗する。


 その時、一瞬だけ掴む力が弱まった気がしたので、私は死に物狂いでその場から抜け出して走った。


 そこで、目が覚めた。



 目が覚めると、私の周りに前もらったお守りの焼け焦げたものがいくつも散乱していた。


 肩がひどく痛んだため来ていた服をずらして肌を確認したところ誰かに掴まれたような赤い跡ができており、爪が食い込んでいるような跡もあり、出血していた。


 ふと服の裾辺りも見てみると、ところどころ人の手でちぎられたように破られていた。



 その日の夜、住職が「悪霊を祓うための準備が終わった」と言って、私の周りを白い縄のようなもので囲い、それに私には読めない文字で書いてあるお札を大量に貼り付けた。


 その円の外側で住職が座禅を組んで念仏を唱えだす。


 そして、私は眠りに落ちた。



 ・9回目の夢

 私は、自分が住んでいるアパートの部屋のドアの前に立っていた。


 ドアが開かれ、部屋の中から八本の腕が伸びてくる。


 それらは私の体を掴み、部屋の中へと引きずり込もうとしていた。


 私は必死に抵抗しようとする、しかし、暴れようとした途端に四肢を掴まれ固定され、首を絞められる。


 息をしようとするも、骨が折れそうなほどの強い力で首を絞められているため、全く息を吸うことができない。


(た、たすけて…………)


 薄れゆく意識の中で、私は最期に心の中で助けを乞う。


 ……………………


 すると、どこからか声が聞こえてくる、これは……念仏?


 その念仏が聞こえ始めた途端にその四人は苦しみ始める。


 だんだんと念仏を唱える声が大きくなっていく。


 声が大きくなってくると、四人の苦しみ方も酷くなっていく。


 髪をむしり、肌を掻き、のたうちまわり、自身の体に爪を食い込ませ、互いの体を噛み、断末魔を上げる。


 そしてついには四人はふっと消えてなくなった。


 そこで、目が覚めた。



 私は目が覚めてからまず真っ先に住職にお礼の言葉を言った。


 住職はだいぶ疲弊しているようだったが、それでも笑顔で「また困ったことがあればいつでも頼ってください」と答えてくれた。


 それから私は自分が住んでいたアパートについていろいろと調べてみたのだが、どうやらあそこは、昔殺人事件が起こったようなのだ。


 被害者は四人家族で、三十三歳男性、三十一歳女性、十歳女児、八歳男児。


 さらに詳しく調べてみたところ、被害があったのは私が暮らしていた部屋だった。


 私はすぐに引っ越しをした。今回大変お世話になった住職の寺の近くにあるアパートだ。前のアパートよりは若干狭いが、文句は言ってられない。


 引っ越しを終えた私はだいぶ疲れが溜まっていたので、布団を敷いてすぐに寝た。



 ・10回目の夢

 足首を掴まれた、そのまま地面に…………

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事故物件 啄木鳥 @syou0917

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