第11話 木曜日の圧縮

「……は?」


クローゼットの中で、タラオは硬直した。

先ほどまであった浮遊感があった消えており、人の気配も消えた。やっと声が聞こえなくなったので外に出ようとしたが、外には全く出られない。


それもそのはず。


現在クローゼットは頑丈なワイヤーでグルグル巻きにされている上、ドアを下に置かれていた。

出られる訳がない。


しかも恐ろしいことはまだ続く。


(え? 俺、今、揺れてる……?)


クローゼットはガタガタ揺れていた。

先ほどまでは誰か人に運ばれているような揺れだったが、今は違う。

これは・・・そう。

自動車による揺れだった。

アスファルトの上を走る自動車がクローゼットに振動を伝えていた。


(まさか……運ばれてる!?)


必死にドアを開けようとするが何をどうしても開かない。


「お、おい……冗談だろ!?開けろ!誰か開けろって!!」


トラックはクローゼットを乗せて走る。

クローゼットは頑丈な金属製であり、中でどれだけタラオが叫ぼうが外にいる人間には全く伝わらなかった。


(やばい、やばい、やばい!!!)


どうする!? どうやって脱出する!?

そこで、彼はスマホを取り出した。

ナナミに電話をかける。


その画面には圏外の文字。


分厚い金属製の板はスマホの電波など通さない。

タラオはただ無意味に叫び、助けを求めることしかできなかった。


――――――――


「結局タラオ君来なかったなあ・・・」


ナナミはスマホ画面を眺めていた。

今日はタラオ君が家に遊びに来る予定だったのに、突然夫から買い物を依頼された。

しかも途中で追加が入り、なんだかんだ2時間もかかってしまったのだ。

代わりに10万円もらったが、正直言って割に合わない。


「それにしても・・・」


タラオ君は一体どうしたのだろうか?

最近立て続けに私の不倫相手が突然消えている。

少し心配だった。


プルルルル


プルルルル


「あ」


そんなことを考えているとスマホに着信があった。


『木崎タラオ』


ようやく折り返して連絡してきたか。

まったく人との約束をほっぽってどこに行っていたのやら。

ナナミは少し勿体着けるように電話を取った。


「……タラオくん?もう今日はどこにいたの?私ずっと待って・・・」


『おいナナミ!!!助けてくれ!!!俺、やばい!!!』


タラオは切羽詰まった様子だった。

電話の向こうではガシャン…ガシャン…という機械音が響いている。


「え?タラオ君どうしたの落ち着・・」


『これが落ち着いていられるか!!!オレ今、クローゼットの中にいるんだよ!!!』


「クローゼット?なにかくれんぼでもしてるの?」


『違げえよバカ女! なんか俺潰されてるんだよ!それでクローゼットがひしゃげててもう持たねえ!!』


「ええ? ちょっと、何言ってるの?」


説明しよう。

廃金属はただ打ち捨てられるのではなく、プレス機によってコンパクトにされた後、再利用されるのである。

普通プレス機にセットされる過程で中で男が騒いでいれば職員が気付きそうなものだが、あろうことかこの木崎、唯一助かるタイミングで叫び疲れて寝ていたのだ。

そのため現在、絶賛プレス機で圧縮中である。


木崎の耳にはプレス機のガシャン…ガシャン…という音が段々大きく聞こえていた。


『早く助けを呼べえええ!おい聞こえねえのかバカ女!』


「え?え?意味が分からないんだけどタラオ君はどうしたの?どういう…」


『だからクローゼットがもう持たねえんだよ!!おかげで電波は届くようになったけどもう潰れて・・』


その時——


ガシャン!!!!


一際大きな金属音がしたと同時に


『ぷにゅっ』


という音が聞こえたと思ったら電話は切れた。

ナナミが小学生の頃、飼っていたハムスターをうっかり踏みつぶしてしまったことがあったのだが、その時に同じような音を出していた気がする。


流石に心配になりナナミは慌ててかけ直すが


『おかけになった電話番号は現在電波の届かない位置に…」


タラオは全く電話に出る様子はなかった。

背中に嫌な汗が流れる。

これで私の周りから消えた男は4人。

ここに来てようやく。本当にようやく。

ナナミは異常事態を察知するに至ったのだった。


―――――――


次の日の朝。


アカネはいつものようにマモルとニュースを見ていた。


ニュースではクローゼットの中から男性の遺体が見つかるも既にぐちゃぐちゃになっており身元は不明。

警察では捜査が・・・というニュースが流れていた。

なんでも廃金属の鉄塊の中に1つ、おびただしい量の血液が滴り落ちるものがあり、慌てて確認したところ鉄塊になったクローゼットの中から、随分コンパクトになった1人の男が発見されたそうだ。


「恐ろしい話だ。ふざけてクローゼットに入ってかくれんぼでもしていたのだろう。安全軽視の考え方は改めなくてはならないな。アカネも気を付けなさい」


「う、うん・・・」


アカネは軽く返事をした。

顔は多分思いっきり引きつっていたと思う。


(アレ絶対に家にあったクローゼットだって!色とか見覚えあるもん!絶対そうだって!間違いないって!!さっき二階の寝室見たらクローゼット一個なくなっていたもん!!)


とはいえ警察に通報する気にはなれなかった。

あれも多分母の浮気相手なのだろう。

そういえばなんか前にクローゼットに浮気相手の男が隠れてた騒動なんてあったな、ということを思い出した。


最近母は月火水は家にいるようになった。

きっと来週からは木曜日も家にいるのだろう。


母が毎日家にいるようになったら、その時我が家には一体何が起こるのだろうか?

アカネは戦々恐々としていた。


そんな中マモルだけはいつもと変わらない。

彼はコーヒーを啜りながらタブレットで動画を観ていた。


『『はいどうもこんばんはー!』』

『金田マミと!』

『金田ショウゴで』

『今日もお料理作っていきまーす!!』


金田夫婦の日常チャンネル。

夫婦で運営する動画チャンネルで、それなりの人気がある。

アカネもよく視聴していた。

父も料理に興味があるのだろうか?

そんなイメージは無いが…。


(まあ気にしてもしょうがないか)


アカネは食パンを食べると学校へ向かう。



今日も平穏な一日が始まろうとしていた。

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