第16話
「凛莉さん……」
「美音、落ち着いたみたいだね。まあアタシも少し頭を冷やすために友美のところへ行ってたんだけどさ」
「凛莉ちゃん、美音ちゃんの事が心配でソワソワしてたもんね。それでそちらが凛莉ちゃんの元カノさんでいいのかな?」
友美さんが愛奈さんを見ると愛奈さんは軽く身体を震わせた。
「そ、そうだけど……」
「そっか。まあでも、今は別れててお互いに落ち着いてる状態みたいだし、私が何か言う事はないかな。それより私はあなたとも仲良くしたいな。こうして出会ったのも何かの縁だしね」
「そう。まあリリーが相談をするほど信頼を置いてる相手なわけだし、アタシだって断る理由はないわ。アンタ、名前は?」
「大竹友美。あなたはたしか……」
「来栖愛奈。愛奈でも来栖でも好きな方で呼びなさい」
「じゃあ愛奈ちゃんで。さてと、私達の事はさておき、本題に入らないとね」
友美さんは私を見るとウインクをしてきた。それに対して頷いて応えた後、私は凛莉さんに頭を下げた。
「凛莉さん、イラついて八つ当たりをして本当にごめんなさい。凛莉さんだって心配してくれたのにあんな言い方しちゃって……」
「いや、色々焦ってる中だから仕方ないさ。それで、答えは見つけたのかい?」
「作品の方はまだ。でも、他の答えは見つけましたよ」
「そう。それならお互いに頭を冷やしたかいがあったっても――」
「太刀川凛莉さん、私はあなたの事が好きです。私とお付き合いしてください」
「ん……え?」
凛莉さんが驚き、友美さんが嬉しそうな顔をする中、愛奈さんは呆れた様子で小さいため息をついた。
「美音……アンタね、告白するにしてももっとムードとか気持ちの準備とか色々あるでしょ?」
「迷う前に言ってしまった方がいいかなと思って」
「そういえばアンタ思ってたよりもフッ軽だったわね。はあー……」
愛奈さんはまたため息をつく。けれど、すぐにニッと笑った。
「まあでも、リリーみたいに少し奥手な相手にはちょうどいいと思うわ。よくやったわ、美音」
「私だって攻められてばかりじゃいられませんしね。それで凛莉さん、返事を聞かせてもらえますか?」
「……え? へ、返事?」
「はい。本当はゆっくり考えてもらいたいところですけど、やっぱり私はすぐに答えが聞きたいです。YesでもNoでも」
「アタシの答え、か……」
凛莉さんは呟いた。その表情はとても真剣なもので、私の告白を真剣に捉えてくれている事がとても嬉しかった。そして少し考えた後、凛莉さんは真剣な顔のままで口を開いた。
「アンタがアタシを好きだとか付き合いたいだとか言ってくれるのは本当に嬉しいし、アタシだって同じ気持ちだよ」
「凛莉さん……」
「でも、アンタはそれで後悔しないかい? 同性を好きになるっていうことは、アンタも怖がってたみたいに世間から冷たい目で見られたりバカにしてきたりする奴と真っ正面から立ち向かわないといけない。その覚悟がアンタにはあるのかい?」
凛莉さんの言う通りだ。そういう人は世間にはいっぱいいるし、私のように何かのきっかけでメディアとかに出る可能性がある人は尚更好奇の目に晒される可能性はあって、そういう人達にとって格好の獲物になる。でも、私はもう決めたんだ。逃げないしこの気持ちと向き合うと。
「あります。私は好きなものを仕事にしたくて家も出ましたし、今だって大変な中で仕事を続けています。だからこそ、私は私の好きを貫いて、凛莉さんと一緒に生きていきたい。世間の目とか実家にいる両親とかそんな人達はもうどうでもいい。私は私だし、私の好きを誰かに否定される筋合いはないですから」
「美音……」
「凛莉さんだってそうなんじゃないですか? 料理が好きだから料理人になったし、今だって楽しんで料理を作れたり女性を好きになったりするんじゃないですか?」
私の目を見た凛莉さんは小さく息をついてから笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、そうだね。アタシだって好きを貫いてきたから今があるし、アンタとも出会えたのかもしれない。だったら、好きを貫いていく同士で付き合って、一緒の墓に入るのも悪くないかもね」
「凛莉さん……」
「付き合おう、アタシ達。アタシを好きになって、アタシを好きにさせた以上、最期まで逃がさないからね。覚悟しておきなよ?」
「はい、もちろんです」
私達が笑いあっていると、愛奈さんが目を潤ませながら鼻をズルズルすすり始めた。
「アンダだぢ、よがっだばねぇ……!」
「愛奈ちゃん、泣きすぎ。実は涙脆い方だったり?」
「べ、別に動物のハートフル物とか赤ちゃんの成長系動画で泣いたりなんてしてないわよ!」
「誰も聞いてないって。でもまあ、思ってたよりもいい子みたいでよかった。愛奈ちゃんとは今後ともいい関係を築いていけそうな感じがするよ。さて、そうと決まったら、例の男性の告白は断るんだよね?」
「断りますけど、それに関して少し考えてる事があるんです」
「へえ、それはなんなんだい?」
「それはですね……」
私は考えていた事を三人に話した。三人とも驚きはしたけど、何だかんだでワクワクした様子だった。
「よし、ここから始めよう。私達のストーリーを!」
前に進むために私は顔を上げて一歩ずつ踏み出した。
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