九回裏、その先。
ナナシリア
第1話
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
たしか、野球の夢だった。よく知らないチーム同士が戦っていて、夢を見るごとに回が進む。
つまり九回目の今、夢は九回の様子を映し、九回裏を終え、そうやって目が覚めた。
「なんか、負けてた……?」
チーム名すら覚えていないが、俺の応援するチームは負けていた気がする、それぞれの点数なんかは憶えていないが、一点差だった。
しかしまあ、試合が終わったからといって寝覚めになにかがあるというわけでもなく。
ただなにか、応援するチームが負けたあの後味悪い感触しか残らない。
しかし、あれだけの接戦を見せられては、野球をやってみたくなる。
実は俺は、これまでの人生で野球に触れたことが、皆無といっていいほどにない。
「そんな俺に野球やりたいと思わせるほどの白熱、これ野球布教装置かなにかか……?」
なんていう空想論を一人ぼやきながら、スマホで今からでも始められる野球クラブをさがす。
さすがに高校生からは厳しいかと思われたが、そんな高校生も受けれてくれるような野球クラブを見つけた。
見学だけなら無料ということなので、見学に行ってから考えようか。
『さあこれで9回! この白熱した戦いに終止符を打つ最後の攻撃。バッターボックスに立った打者は、高校生になってから野球を始めたとのことです!』
あれから、何年か。
奇妙な夢のせいで始めた野球も、こんなに続いて、それを仕事にするなんて、当時の俺は考えてもいなかった。
「ふぅ……」
深呼吸。
そういえば、あの夢もこんな感じだったっけ。あの時のチーム名は憶えていない。
でも、相対している、対戦相手のチーム名はどこか既視感がある。知らなかったはずなのに。
ピッチャーが構えて、投げる。
振れない。
『おっと振れない! 同点から、勝利が一歩遠のきました!』
そうだ、確か夢では、最後の攻撃で同点から見逃し三振、最後の防御で一点取られて敗北したんだった。あの時の俺は、観戦者だったけど。
どこかに突っかかっていたものが取れた、みたいな。
そんなことしている暇はないわけだけれど。
ピッチャーが構えて、投げる。
目の前のその男が、冷笑した気がした。
振る。当たらない。
なぜだか、いつもよりずっと、難易度が高い気がする。
だからピッチャーは構えて――。
九回裏、その先。 ナナシリア @nanasi20090127
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