第10話 文化祭実行委員

 月曜日の六限目。この授業が終われば今日の授業は終わりなので、普段ならば気の抜けている生徒が多いのだが今日は違った。


「それでは、文化祭についてクラスでは何をやるか決めていくのですが先に文化祭実行委員になってくれる人を決めないといけません。誰かやりたい人はいますか?」


 そう。今日の六限目のロングホームルームでは来月末に控えている文化祭についてなのだ。文化祭は誰もが楽しみにしているようなのだが、実行委員となると話は変わってくるようだ。誰も手を上げずに時間だけが過ぎていく。


 早く文化祭の内容について決めたいのかクラスメイト達はそわそわしているが、実行委員になると放課後の集まりなどもあるので誰もが躊躇していた。


「男女一人ずつお願いしたいんだけど……誰かいないかな?」


 五分を経過しても誰も手を上げないので担任の先生も困っている。もちろん、俺もやりたくはない。他の生徒と違って文化祭を楽しみにしているわけでもないので、やりたくないという思いは他の生徒達よりも強いかもしれない。


 文化祭の楽しみは詩音と回れることくらいだ。なので、自分のクラスが何をしようが全く興味がない。そんなことを考えていると前の方の席からこちらを見ている詩音と目が合った。詩音が頷くので俺もよく分からないが、とりあえず頷いておく。


「先生! 私と新川くんが実行委員をやります!」


「……え?」


「ホントに!? ありがとう藤崎さん! 新川くんもいいの?」


「……大丈夫です」


「ありがとう!」


 どうしてこうなったとは言わないが、あの頷きだけで理解しろというのはあまりに酷ではないだろうか? けど、詩音が言うならばやるしかない。今の俺の最優先事項は詩音の意思なのだから。


「それじゃあ、2人とも前に来て司会をしてくれる?」


「分かりました!」


 俺は教室の前まで行って詩音と並び立つ。司会をしろと言われて、俺ができるわけもないので詩音が話を進めていき俺が黒板にクラスメイトの意見を書いていく。


 クラスメイト達はノリノリで十個以上の案が出てきたのだが、最後は多数決となり俺のクラスは詩音の嫌がっていたコスプレ喫茶に決まる。なお、男子の九割がコスプレ喫茶に投票していた。


 今日のロングホームルームは、クラスの出し物をコスプレ喫茶に決めて終わった。細かいことは明日以降のロングホームルームの時間を使って決めていくらしい。


「最悪だよ……」


「コスプレ喫茶がか?」


「そうだよ! 何でよりによってこれになるかな! 龍斗くんの執事服以外の楽しみがないじゃない!」


「それは楽しみなんだな。俺が着ても大して面白くないと思うぞ?」


「大丈夫! 絶対に似合うから!」


 詩音は自信満々の顔で言うのだが、俺はそんなに執事服が似合いそうな顔なのだろうか? 


 俺の本音としてはしては裏方での仕事がしたい。普通に考えて俺に接客は厳しいだろと思うのだが、俺が着ないと言うと詩音の機嫌が目に見えて悪くなるのは容易に想像がつくので諦めるしかなかった。


「それじゃあ、行こっか!」


「そうだな」


 今日からさっそく文化祭実行委員の集まりがあるらしいので会議室へと向う。会議室に入ると各クラスで男女一人ずつの実行委員がいるので、すでにそれなりの人数の生徒がいた。


 俺と詩音が会議室に入るとすぐに視線が集まった。俺と詩音は学校内でも注目の的になっているのだ。理由は明白だし、気にしても仕方ないので無視するのだが。


「おっ、噂の藤崎さんの彼氏が隣なのか」


「……誰だ?」


 席に座るなり偶然隣に座っていた男子生徒に声をかけられるが、俺はその生徒のことを全く知らない。顔も見覚えがなかったのでお互い初対面の人なんだろう。


「ひでぇ!? 去年同じクラスだっただろ!」


「そうなのか。それは悪かった」


 どうやら、初対面ではなかったらしい。詩音の時もそうだったが全く覚えていないというのは少し申し訳ない気持ちになる。

 今までは誰かと関わることがなかったので、人の顔と名前を覚えなくても全く問題なかったのだが今後はもう少し人の名前と顔を覚えようと思う。


「まぁ、同じクラスだったけど話したことはなかったしな。しゃーないか」


「龍斗くんって、本当に周りに興味が無いんだね。私のことも知らなかったし」


「え? 藤崎さんのことも知らなかったのか……まじで?」


「まじなんだよ! 現在進行形で同じクラスなのにね!」


「同じクラスになったことなくても藤崎さんを知らない人の方がこの学校だと少ないだろ!」


 俺を間に挟んで詩音と未だに名前の分からない男子生徒の会話が盛り上がっている。真ん中にいる俺はなんだか微妙に居心地が悪い。話題が俺についてというのが一番の原因なのだろうが。


 結局、先生が来て会議が始まるまでずっと俺を挟んで俺についての話題で詩音達は話していた。会議といっても今日のところは文化祭実行委員長を決めるのと各クラスで何をするかの発表で終わった。ちなみに、実行委員長は三年生の先輩が引き受けてくれた。


「新川! 彼女のこと大事にしろよ!」


「分かっている」


「それなら大丈夫そうだな! それじゃあな!」


 最後にいい感じのことを言って去っていくのだが、俺は最後まであの男子生徒の名前を知ることはなかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る