第6話 狭いコミュニティの悪癖

平成2年の3月に高校を卒業した私。


茅ケ崎の県立茅ヶ崎西浜高校を、それはそれは最下層でどうにか卒業した私は就職のため今の住まいである信州の片田舎、人口1000人程度の農村へと引っ越してきていた。


平成の初頭。

バブルが崩壊した直後だったが、まだまだ景気は良かったあの時代。


就職も売り手市場、いくらでも職のある時代でした。


かくいう私も高校の時ずっとアルバイトしていたスーパーの店長から『新しい制服、サイズこれで良いよね?』とか渡されていたし?


私一言も言ってないよね?

就職するとか?!


もちろん断った。

散々アルバイトをしていたので内情はよく知っていたからね。


あれは地獄だ。

うん。


取り敢えず貧乏だったし、色々と冷めていた私。

進学なぞ頭にあるわけもなく、早々に就職することを決めていた。


本当は羨ましかった。

大学でブイブイ言わせたかった。

女の子ともイチャイチャしたかったし?


まあね。

当然モテる訳もなく、見た目おっさんの私。


一応お付き合い?

したけど?


ほ、本当だからな!

え、エッチだって…


そ、その。


コホン。

ノーコメントで。


…いつか心の整理が出来たら公開しましょう。

まあね。


おっさんの初体験。

誰得な話なので割愛いたします。


一応『童貞卒業』はしましたよ?



※※※※※



そんな中高校3年の春、私はいくつかの別れを経験し、打ちひしがれていたこともあったのだけれど。


田舎にいた身体障害者の跡取り、『しんちゃんおじさん』ががんで亡くなり、我が田舎にはおばあちゃん1人。


心配した叔母たちが、何やら画策し。

いつの間にか私の就職決まっておりました。


『どうせおばあちゃん、長生きしない。きっと2~3年だよ。景気いいし、そしたらお前は好きに生きればいい。頼んでも良いよね?』


という訳で地元の農協に就職した私。

衝撃が襲う。


ええとですね。

貧乏だった私はそれはそれは多くのアルバイト掛け持ちしておりました。


あの当時時給は500円前後。

つまり私は最低でも月200時間くらいは働いていたんだよね。


だから高校生ながらに月の稼ぎは10万を超えておりましたし?

…ていうか申告しなかったな?!


えっと。

もう時効、ですよね。


コホン。


そして平成2年の4月の初給料。

入金なんと6万4千円。


「はあっ!?」


マジで通帳、10回くらい見直したっけ。


確かに説明を受けた時、そこの組合長、


「うーん。大体12~13万だね。田舎だし?君家あるんだろ?じゃあ頑張るといい」


そう言われてはいた。


あの当時高卒でも大体14~16万が初任給だった。

確かに家賃が要らない事を鑑みれば、まあ12~13万なら我慢できる。


それに正直2~3年で辞める予定だし?


でもさすがにこれは納得がいかない。

なので私は直接組合長を問い詰めた。


そして明かされる悍ましい真実。


「あーうん。ほら、ボーナスあるでしょ?それを足して12で割ればそんくらいってことなんだよね」


おいっ!

それって詐欺では?!


そして始まる田舎の生活。

マジで。


田舎が過疎る理由。

それに私は直面していたのだった。




※※※※※



忘れもしない平成2年3月12日。


私はいくばくかの不安を抱えつつも田舎の家に引っ越してきていた。


「…ただいま。これからよろしくね?ばあちゃん」

「うんうん。よく来たね。…今日からここはお前の家だよ」


子供のころから散々遊びに来ていた田舎の家。

あの悍ましい、叫ぶ壁があった部屋を自室とし暮し始めた私。


早速5万円で購入した『何とかふとん店』というのを消した箱バンに乗り、隣町へと出かけていた。


確か月曜日だったあの日。

当時愛読していた週刊少年ジャンプの発売日。


何しろあの当時(今もだけど)うちの村には書籍を扱う店がない。

コンビニすらない。

(今、令和7年時点では一応、山崎Yショップあるけどね。本は無いよ?)


だから隣町である小海という町へと赴いた私。

衝撃が駆け巡る。


皆さん知ってます?

今はもう買わないから違っていたらごめんだけど。


実は少年ジャンプ、発売日、火曜なんだよね。

確かに書いてあるし?


でも茅ヶ崎にいた私にはジャンプと言えば月曜日、しかもコンビニなど、0時過ぎた瞬間に買えた物です。


田舎、マジでおそるべし。



※※※※※



なぜか予約?

それを済ませた私は打ちひしがれながらも帰路についていた。


そして家につくとそこには。


なぜかニコニコした田舎の青年、2名ほどが私の到着を待っており、おもむろに紙袋を手渡してきた。


「???」

「やあ。君が…うん。これからよろしくね」

「は、はあ」


そして立ち去るその二人。

誰?


恐る恐る開けたその紙袋には…


消防団と言う恐ろしい組織の制服(法被)と長靴、そしてヘルメット。

さらには『早起き野球』という意味の分からない野球チームのユニフォームが入っていました。


そしてメモ用紙。


戦慄した私はそれを見てさらなる衝撃を受けていた。


「3月15日夜7時。青年団室」


えっと。


私さっき来たばかりなのですけど?


恐るべし田舎。


そして一週間後。


私は顔も名前も知らない人のお葬式に参列していました。

おばあちゃんの代わり。


まあね。


それはしょうがないよね?


でもさ。


いきなり『親族代表挨拶』はないんじゃないかな?!

死んだ人すら俺知りませんけど?


いきなり田舎から帰りたくなったのを覚えております。


いやー。

マジで。


だから過疎るんですよ?


はあ。

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