第13話 解読された数式

ロンドンの夜は静かだった。

しかし、ハーディーの書斎には鉛筆の走る音と、ラマヌジャンの小さな独り言が響いていた。


「……ゼータ関数が……こうなって……」


彼は黒板の前で何度も数式を書き直しながら、ハーディーとともに暗号の解読に挑んでいた。

送られてきたゼータ関数に関する暗号。

そこには明らかにリーマン予想の核心に迫る手がかりが隠されている。


ハーディーは、顎に手を当てながらラマヌジャンの書いた式を見つめた。


「……この数列の並び、どこかで見たことがあるな……」


ラマヌジャンは頷く。


「これは、リーマンゼータ関数の非自明な零点のパターンです。」


「やはりか……」


ゼータ関数の非自明な零点とは、リーマン予想が正しいかどうかを決定づける重要なポイントである。


「ここにある数値の並びをよく見てください。ある法則に従って並べられているのがわかりますか?」


ラマヌジャンはホワイトボードに数列を書き直した。


2.3, 4.7, 6.9, 10.5, 14.2, 18.8, 23.1, 28.9……


「これは、非自明な零点の近似値を並べたものですね。」


「その通り。そして、この数列に隠された規則性を見つければ、送信者の意図がわかるはずだ。」


ハーディーはそう言いながら、ペンを走らせた。


2.3 + 4.7 = 7.0

6.9 + 10.5 = 17.4

14.2 + 18.8 = 33.0


そして、それらを並べると——


7.0, 17.4, 33.0, 52.0, 74.8……


「……何かの座標か?」


ラマヌジャンはすぐに気づいた。


「これ、経度の座標の数値に近いです!」


「なるほど、つまり……」


ハーディーは計算結果を見つめ、ピンときた。


「これはロンドン市内の特定の場所を示している。」


ラマヌジャンはすぐに地図を開いた。

緯度と経度を計算して座標を割り出す。


「……ここの地点です!」


指さした先は、ロンドンの中心地——キングス・カレッジだった。



証明の成功と消えたエリザ


「つまり、この暗号を送った人物はキングス・カレッジに何かを隠している?」


ハーディーはすぐに立ち上がった。


「今すぐ向かうぞ。」


ラマヌジャンとカーライルも後に続く。


彼らがキングス・カレッジに到着すると、すでに深夜。

だが、建物の一角の灯りが点いていた。


「……誰かいる?」


慎重に中へ入ると、そこにはエリザの筆跡で書かれた数式が残されていた。


「エリザはここにいたのか!?」


しかし、エリザの姿はどこにもない。


ラマヌジャンは黒板に書かれた文字を読み上げた。


『ζ(s) の証明は完成した。しかし、これを知る者は危険にさらされる。私は……』


最後の一文が書かれる前に、何者かによって中断されている。


「エリザは証明に成功していた!」


「だが、そのことを知る誰かが彼女を……」


ハーディーは拳を握った。


そのとき、机の上に一枚の紙が置かれているのをラマヌジャンが見つけた。


「これは……エリザの字じゃない!」


紙には、こう書かれていた。


『この証明は封印されるべきだ。真実を知る者は、命を失うことになる。』


「つまり、エリザは……」


「何者かにさらわれた可能性が高い。」


「証明が完成したことを知っているということは、それを利用しようとする者がいる……!」


カーライルが低くつぶやいた。


「これは、数学を超えた陰謀だ。」


ハーディーは決意の目をした。


「我々がエリザを取り戻し、証明の真実を世界に示さなければならない。」


そして、彼らはエリザの行方を追う新たな旅に出る——。



次回予告

•エリザの行方を追え!

•リーマン予想の証明がもたらす衝撃の展開!

•数学探偵たちの決断——真実を公表すべきか、封印すべきか!?


次回、『数学者と探偵の交差点』

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