あの夢を見たのは、これで9回目だった。

海猫ほたる

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 俺がまだ幼い頃だった。


 俺は両親と一緒に、どこまでも続く草原にいた。

 両親の顔は忘れてしまって、ぼやけてよく見えないが、夢の中の二人は、とても楽しそうに笑っていた。


 草原には、数えきれないほどの牛が放牧されていて、呑気にむしゃむしゃと草を食んでいる。


 俺はそんな牛を眺めて喜んでいたのだが、突然空が暗くなってくる。


 そして、空から大量にアダムスキー型の宇宙船が現れる。


 宇宙船は地面に向けて光を放つ。その光に当てられた牛たちは、次々と空に向かって吸い込まれていく。

 牛たちは激しく嘶きながらも、宇宙船の中に吸い込まれて行った。


 そして、まだ幼かった俺も、牛と一緒に宇宙船に吸い込まれてしまったんだ。


 また、この夢だ。


 あのアダムスキー型は、密猟船団だった。


 密猟した牛達に紛れていた人間の子供は、密猟者にとってはいらない獲物だった。


 人間の子供は、惑星プロキシマbの夜市に売られることになった。


 そこに、たまたまこの星まで荷運びに来ていたウォルスが来た。


 ウォルスは狼と人間の混じり合ったような外見をしていて、一言で言えば狼人間だ。


 ウォルスは宇宙貨物の荷運び人をしていて、ソンブレロ銀河から果てはアンドロメダ銀河まで、宇宙を駆け抜けて荷物を運ぶ。


 そして彼は、夜市で売られていた俺を買い取って、育ててくれた。


 育ての親と言っても良い。

 そして、俺に宇宙の荷運びの仕事を教えてくれた。


 だから、俺は今日まで生きて来れた。


「太陽系第三惑星、それがお前の生まれた星だ」


 そう教えられても、俺にはピンと来なかった。

 今更、昔の事なんて覚えてないし、生まれた星に帰りたいなんて、思ったこともなかった。


 それなのに。

 

 それなのに、最近になって、夢を見るようになった。


 幼い頃、両親と遊んでいた農場でアダムスキー密猟船団に攫われる夢。


 何度も繰り返される、夢。


「ねえ、地球のおみやげ、忘れないでね」

「分かってるさ。でも、何があるんだろうな」

「宇宙ミュシェランガイドには、ひよこの形をした饅頭が話題だって書いてあるわよ」

「なら、それにするか。どこに売ってるんだろうな」

「ねえ、なんでも良いから、早く戻ってきてね」


 彼女の透明な触手が、俺にまとわりつく。

 俺は一度、地球に行ってみる事に決めた。


 俺はガールフレンドのクラーネに、地球に行くと伝えた。


 クラーネは、見た目はクラゲ型だけど、とってもかわいいんだ。


「なに、すぐ会えるさ。この船のワープなら、太陽系第三惑星なんてすぐだぜ」

「すぐって行っても、ここからだと一年はかかるわ」

「ああ。だから待っていてくれ」


 彼女もまた、ウォルスが夜店で買ってきた、宇宙孤児だ。


 俺たちはずっと一緒に育ってきた。

 地球から帰ってきたら、彼女にプロポーズを申し込むつもりだ。


 二人で宇宙貨物の荷運びをもっとがんばって、ウォルスを楽させてやろうと思っている。


「待ってる」

「じゃあ、行ってくるよ」


 俺はクラーネの触手にキスをする。

 透明な触手が、仄かに赤く染まる。


 俺は、宇宙船に乗り込んだ。

 エンジンを点火する。


 地球へ——いざ、出発だ。

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あの夢を見たのは、これで9回目だった。 海猫ほたる @ykohyama

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