第8話 アステリア王国 円卓会議
そのころ、アステリア王国の円卓会議上では緊急会議が開かれていた。
参加しているのは、宰相、名のある長老たち、そしてアステリアで格式高い宗教界の聖職者枢機卿、さらに宮廷騎士団を改組されて作られた第一騎士団長。
そして気難しい顔をした大臣たち。
皇帝の席は、未だ不在だ。
「まだエリシア様は本国に帰られないのですか?」
「そのようでございます。第一皇女エリシア様は、今月の初めに訓練に行くとエルフの森に入られて以降、消息を絶っていらっしゃいます」
宰相が耳障りだというように、眉間に皺をよせながら、口を開
いた。
「それで、陛下には現状、なんとお伝えしているのだ」
「……はい。陛下にはただいま、エリシア様は王国の第一騎士団の精鋭たちと共に、王国辺境のダンジョンに、魔獣討伐に向かっているとお伝えしております。ですので、万が一にも皇女様に身の上の危険が及ぶことはないと、重ねて申しております……」
「そんな言い訳、あと何日持つか危ういぞ。あれほど監視を怠るなと、何度も言っていたのに。まったく王家守護団は何をやっているのだ!」
「……それが、途中まではエリシア様の後をつけていたそうなのですが、何のことか、突然お姿を見失ってしまったということで……」
「ふざけるな! そんなことが通用すると思っているのか! こんな失態が陛下にばれてしまったら、私たちの立場は危ういのだぞ? 分かっているのか! それに来月にはこの国で最も大切な式典が控えているというのだぞ!」
「……はい、はい。心得ております。しかし日ごろからエリシア様の天真爛漫ぶりには、私どもも苦心しておりますゆえ……」
「しかしこれは困りましたね。アステリア祭は王国建国千年の有所ある式典と、それに際して行われるアステリア剣武祭は、この国の経済の活気を取り戻す重要なイベントとなっておりますのに、未だ皇女様が不在であるとは……」
枢機卿は、額に手をあてて、肘をつく。
そんな意気消沈ムードが漂っている円卓会議上に、一人だけそれに似つかわしくなく、まるでそれが好都合というように笑みを浮かべているものがいた。
第一騎士団長に昇格した、ランスロット卿だ。
「問題はありません。彼女は帰ってきますよ」
「な、なんと。ランスロット卿、なぜそう断定できるのですかな」
「最近、北方の王国で謎の魔獣大量発生による災害が起こっています。密に魔王復活が囁かれている中、あのちっぽけな小娘、恐
れ抱いて帰ってくるに決まってる」
その時、長老の一人が血相を変えて立ち上がった。
「ま、魔王復活……。それは確かなことなのですか」
(ふん、皆我が国はあの勇者を手放したからと言って、弱気になっている。【最強】を失ったことによる、自信喪失と言ったところか。あの時はこいつらもあんなに意気揚々としていたのに、愚かだ。しかし非常に都合がいい。魔王の復活と、最悪が降りかかれば、この国が落ちるのも時間の問題だろう)
「いえ。確かなことは言えません。しかしただ小耳にはさんだだ
けとでも申しておきましょうか」
そうわざと仄めかすようにランスロットが言うと、面々の顔が蒼白になっていくのが分かった。皆、口に出さないだけで考えているに違いない。
この国が失った、大きすぎるあの存在を。
その時、沈黙が立ち込めた円卓上に、イザーク侯爵が恐る恐る口を開いた。
「も、もしですぞ。魔王が何かの拍子に再び復活を遂げたとしたら、我が国は……」
「そ、それに近頃、我が国の王宮騎士団が改組されてから、騎士団全体の指揮が下がっているという報告を受けますが……、宮廷魔法師も不在の中、我らがやるべきことは、再び優れた勇者を国に引き戻すこと……」
「そうですぞ! アステリア剣武祭では国中から腕に自信のある魔法使い、および剣士が招集され、競技が行われる予定であります。そこでの優勝者の数名を、我が国、第一騎士団の新たな戦力として迎え入れるというのはどうでしょうか?」
その意見に、おお、と感嘆の声が上がる。
それに蓋をするようにランストットは淡々と口を開く。
「心配には及びませんよ。イザーク侯爵。我が国にはグランツ卿より遥かに優秀な人材が五人もそろっているではありませんか」
あの勇者グランツの名前を出すと、皆が息を呑むのが分かった。
(皆単純だ。火の粉が自分に降りかかりそうになると、途端に喚き始める)
「と、とにかく我らがやることとは早急なエリシア様の発見と、来月に迫ったアステリア祭を成功させることでしょう!」
「あ、ああ。その通りだ。陛下に悟られぬよう、近隣国中に第一皇女緊急招集令を出せ! 見つかったらもうどこにも逃がさぬよう、厳重に部屋に閉じ込めておけ!」
「は、は! 畏まりました。早急に対処いたします!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます