きっと妖怪がいる

加藤ゆたか / Kato Yutaka

きっと妖怪がいる

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 はずなんだけど、どんな夢だったか憶えてない。

 でもきっと私にとってはすごい大事な夢だったはず。

 なにせ9回も同じ夢を見るのだから。



「じゃあさ、なんで9回も同じ夢を見たってわかるの? おかしくない? 憶えてないんでしょ?」

「それはそうなんだけど、誰かが9回目だよって教えてくれたような。」

「誰かって誰よ?」


 そう聞かれて、私は目の前にいる美優の顔を指さした。


「……私?」

「うん。たぶん、そう。」

「たぶんって。それじゃあさ、沙織の夢に私が出たってこと?」

「……そうなる、かな……?」

「ふーん?」


 美優が私を見つめる。

 美優は美人で綺麗な黒髪で長い睫毛で、形のいい唇がまるで芸術みたい。私の親友。私のすべて。


「そうか、そうか。沙織はそんなに私が好きですか。」


 美優がニヤッとその大きな瞳を細めて笑った。

 あ。

 なんで私、言っちゃったんだろう?

 これ、絶対からかわれるやつじゃん。


「いや、好きっていうか……。」

「ふふっ。絶対好きでしょ。」

「いや、そうじゃなくて。」

「……え? 好きじゃないの?」

「いや、そういうことじゃ。」


 なんとも返答に困る私を美優はニヤニヤ見つめてくる。

 美優は全部わかってる。

 美優はそういうところがズルい。

 すでに私の頬が熱を帯びているからわかる。

 きっと真っ赤だ。

 あーあ。

 美優の前でこんな顔はしたくなかったのに。


「沙織は私のこと、なんとも思ってないんだ……。」

「そんなことないって。」

「じゃあ、言って。」

「何を?」

「わかってるくせに。」


 私は美優の大きな瞳を見つめ返した。

 美優の頬もいつの間にか赤い。

 い、いいの?

 私の心臓はバクバクいってもう破裂しそうだ。

 私は意を決した。


「み、美優……。」

「なあに? ちゃんと言って。」

「美優が……す……。」

「んー?」

「……き……。」

「んんー?」


 気付いたら美優の顔が私の鼻先まで近づいている。

 美優の息がかかっちゃう……!

 あっ!


「これが夢じゃん!」


 私は気付いてしまった……。

 そうだ。夢だ。私の妄想。私の願望。


「沙織ったら、9回も同じ夢を見て。」


 夢の中の美優が言う。

 夢の中でも美優は優しい。

 でもきっとこれも妖怪の仕業なんだろう。



 つまり全部、美優のせいだ。

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きっと妖怪がいる 加藤ゆたか / Kato Yutaka @yutaka_kato

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