理屈じゃない 3話

「直正ぁぁ!!」


 ひいっ! な、何すか小沢先生。


「てめぇ、一体いつになったら数学の課題提出するつもりだ? あぁ?」


 あ、えっと、あと少しです。あと少しで終わりますから!


「直正、今日は放課後残ってでも課題出して帰れ」


 え、ちょ、待ってください! きょ、今日だけは無理なんです。


「あん? なに言ってんだてめぇ、この課題が何曜日が締め切りだったか言ってみろ」


 げ、月曜日です……。


「今日は木曜日だぞ。この間も課題は出てんだよ。焦げ付いてんだよてめえだけ。いつまで待たせるんだコルァ!」


 す、すみません! でも今日だけは……明日にはなんとかしますから!


「このままだと通信簿が悪くなるだろコラァ!」


 ぷっ。


「なに笑ってんだよ……」


 い、いやだって、通信簿って、なんか可愛くてつい……。


「てめぇ! 今日中に課題終わらせられなかったら、追い込みかけるからなぁ!」



 ――なんでこんなアッチ系の先生が令和の時代にまかり通ってんだよ!



 しかもよりによって今日は……ヤバい。津栗さんと約束の日なのに。


「何をやってるのだ」


 あ、津栗さん。来てくれたの?


「同じクラスなんだし、直正くんが居残りなのはわかってたからな」


 そ、そうだったな……。うわぁカッコ悪ぃ……。


「大丈夫だ。君が勉強が苦手なのはこの半年でよく理解できてるから」


 あ、そ、そう? ……いや全然安心はできねえけど。


「ほら」


 ノート……? はっ――。つ、津栗さん、それって!? もしかして課題――。


「私のこと、一応書いて来たぞ」


 あっ、そ、そっちか。


「……要らないのなら渡さないが」


 いい、いや、そういうわけじゃないって。欲しいです! ちょっ、こっち向いてください!


「そうか、そうだろう」


 嬉しそうだな……。


「まぁ今回はあんまり細かく書いても仕方ないから主要な出来事を並べておいたぞ」


 そうなんだ。どれどれ――――。


 いや濃っ! 1枚目から濃っ!


 白色の大学ノートのページがほとんど黒じゃねーか。スクラッチアートの削る前みたいになってんだけど。


 一応確認するけど、コーヒーこぼしてない? しかもかなり濃い目のブラック。


「コーヒーは飲めないのだ」


 飲めない……あぁ、もしかしてその、体質というか病気的な意味で……?


「あぁ。飲むと、……眠れなくなる」


 …………。


 そ、そんなほっこりエピソードみたいなのあるのか。


「その辺りのことも書いてるぞ。私の趣味や好きな色とか生まれた時から今までのことを書いてる。それでも減らした方だ」


 へ、へぇ~。――スリーサイズとか書いてない……よな、流石に。


 ……出生時の体重とか書いてるけど!?


「私のこと知りたいって言っていただろう」


 さすがにそこは興味ねぇよ。そんなの知りたがってるやついたら漏れなく変態だよ!


「どうして?」


 そこも理由要る!? 産まれた時の体重を知って心動かされるのは親だけでいいんだよ。


「なるほど」


 いつ初めて立ったとかまで書いてるなこれ。親子手帳みたいだな。


 ……でも、これだけのこと、今日までに書いてきてくれたんだ。


「ああ。君と違って提出締め切りは守るのだ」


 はは……。


 ……ありがとう。


「私が自分で提案したことだから、お礼はいい」


 はは。ま、そうかもしれないけどさ、お礼が言いたくて。


「どうして?」


 言うと思ったよ。なんて言うかな、その……それでも津栗さんが時間を作ってくれて、手を使って書き込んでくれたことを労わりたいっていうか……。


「君は私の上司になりたいのか?」


 いやそうじゃねえよな。ごめん、言葉が思いつかなくて。でも、津栗さんのその行動を知ることができるのも、感謝できるのも世界で俺だけだろ? だから、俺にはその権利がある。


 ……とかどう?


「……ちょっと強引だけど、まぁ及第点としておこう」


 はは、そりゃどうも。


 ……せっかくだし、家に帰ってからゆっくり読みたいんだけど、借りていい?


「それは君に譲ろう。私は自分のことは覚えているから必要ないし」


 ありがとう。


「それと、今度は君の番だ」


 ……へ?


「私も君のこと知らないのだ。だからいきなり私のことを好き――」


 わあああああ! ここ教室だぞ!


「誰もいないからいいだろう」


 今はね? でもいつパッと誰かが帰ってくるかわかんないだろ! 忘れ物したーとか。


「もしかして……、気が変わったのか?」


 え? い、いやそ、そんなことはないけど。


「と、いうことは?」


 づっ、だ、だから、気は変わってないよ。ぜ、全然、まだ……好きだし……。


「どうして?」


 やっぱそれ!?


「それに尽きるだろう。それに、私も君のことを知らないのだから、私にも君のことを教えてもらう権利がある。日曜日の夜6時に、中央公園で待ってるからな」


 ちょっ――……行っちまったよ。


 ……何げに俺の期間短くね? 日曜日!? マジで? ちょっ、さっさと課題終わらせねえと!

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