あの夢を見たのは、これで9回目だった。そのオチとは……

碧居満月

何度も見る同じ夢の結末とは……

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。俺は、冥界めいかいに所在する、死神結社しにがみけっしゃの宮殿前で『祠の管理人さん』と対面する、あの夢を繰り返し見ていた。

 三つ編みに結わいた紫紺の長髪、紅蓮ぐれんの焔を身に纏っているかのような真っ赤な着物と指貫の袴姿の男性。現世に封じられた堕天使の祠を管理する者、通称、祠の管理人さんである。

 その人が、夢の中で対面する俺にこう述べるのだ。

『これからお前に処罰を受けてもらう。今から俺と一緒に来い』と。

 そうして俺は、祠の管理人さんに閻魔えんま大王様の居住地に当たる『閻魔の塔』まで連れて行かれるのだ。このところずっと、この夢を繰り返し見ている。

 確かに俺は過去に、彼が管理をする祠に無断で侵入したうえ、そこに封じられている堕天使の像を、神力しんりょくで以て偽造したが……それは随分ずいぶんと前に処罰を受けて充分に罪を償った。にも関わらず、俺はなぜ、祠の管理人さんから処罰を言い渡される夢を見るのだろうか。それも9回も……考えれば考えるほど、謎は深まるばかりである。



 背がすらっとした長身で、ブラックスーツとネクタイがよく似合うイケメンだが、まるで葬儀の参列者のような格好をしているのに、毛先を遊ばせた茶髪といい、どことなくホストの雰囲気漂う死神の青年、ガクト・シロヤマはこの日、結社からの指令を受けて現世へと向かうため、宮殿から外へと出た。

 宮殿の、正面玄関口に当たる、背丈を超す、観音開きの鉄柵の門を半分ほど開けた時だった。開いていない、こう半分の門に腕組みして寄りかかる一人の人物が、おもむろに声を掛けてきたのは。

「よう、ガクト。今から現世へと、おでかけか?」

 三つ編みに結わいた紫紺の長髪、紅蓮ぐれんの焔を身に纏っているかのような真っ赤な着物と指貫の袴姿の男性。現世に封じられた堕天使の祠を管理する者、通称、祠の管理人さんである。

「ええ、まぁ……それよりも、なぜこちらに?」

「お前に用があって来たんだよ」

 祠の管理人さんは真顔で返答すると、寄りかかっていた門から離れ、シロヤマと対面した。

「これからお前に処罰を受けてもらう。今から俺と一緒に来い」

 シロヤマは思わず、目を瞠った。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。冥界めいかいに所在する、死神結社しにがみけっしゃの宮殿前で『祠の管理人さん』と対面する、あの夢を繰り返し見ていた。

 三つ編みに結わいた紫紺の長髪、紅蓮ぐれんの焔を身に纏っているかのような真っ赤な着物と指貫の袴姿の、現世に封じられた堕天使の祠を管理する者、通称、祠の管理人さんから処罰を言い渡される、あの夢を。

「……今から、あなたと一緒に、閻魔の塔へ行けと?」

「いや……閻魔の塔あそこよりもずっと、体力的にも精神的にもキツく、死神として働いている方が遙かにマシと思い知るほど過酷な場所へ、今からお前を連れて行く」

「俺……これから、仕事なんですけど……」

「心配するな。行き先は、これからお前が行く現世だからよ。そこで、結社からの指令を遂行しつつ、閻魔大王の使用人として、その雑用指令も同時に遂行してもらう。それが処罰だ」

「ひとつ、よろしいですか?」

 青ざめた顔の当たりまで手を挙げたシロヤマは、前置きをしたうえで問いかける。

「俺は随分と前に、閻魔の塔にて処罰を受け、罪を償った筈ですが……なぜ、再び処罰を受けなければならないのでしょう?」

 この問いに、祠の管理人さんは真顔で返答。

「お前にはまだ、償い切れていない罪がある。現世にて生活を送る赤園まりんがまだ、永遠の幽霊エターナルゴーストだった頃……お前は彼女に、三つの罪を犯した。

 強引の壁ドンにあごクイ、挙句、額にキスをして泣かせる行為(『魔力使いだった死神が現世の花屋で副業する理由』第1話、第2話参照)……閻魔大王の代理を勤めるこの俺が、法律の下に、罪を犯した死神おまえを罰する。逃げられないよう、お前をしっかり監視するからそのつもりでな」

 とうやらシロヤマは、辛辣な祠の管理人さんに目を付けられてしまったらしい。

 三つの罪のうちひとつは、現世に復活を遂げた堕天使からまりんちゃんを守護するための力を発動させるためのものだった。

 しかし、それが今や、処罰の対象になるほどの罪になってしまった。これにはシロヤマは驚きを隠せなかった。



 あの夢を見たのは、これで9回目だった。冥界めいかいに所在する、死神結社しにがみけっしゃの宮殿前で『祠の管理人さん』と対面する、あの夢を繰り返し見ていた。

 三つ編みに結わいた紫紺の長髪、紅蓮ぐれんの焔を身に纏っているかのような真っ赤な着物と指貫の袴姿の男性。現世に封じられた堕天使の祠を管理する者、通称、祠の管理人さんである。その人が、夢の中で対面するシロヤマにこう述べるのだ。

『これからお前に処罰を受けてもらう。今から俺と一緒に来い』と。

 夢の中ではその後、祠の管理人さんと一緒に『閻魔の塔』まで連れて行かれる内容だった。

 若干、内容が違えど、これはもう、ほぼ正夢と言えよう。同じ夢を9回も繰り返し見ていたシロヤマは、これがあの夢のオチか……と、青ざめた顔でがっくりと肩を落とすと思い知ったのだった。


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あの夢を見たのは、これで9回目だった。そのオチとは…… 碧居満月 @BlueMoon1016

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