EP12:異世界でも案外世間は狭いって話 ②


 リッキーの部屋から数分歩いた先にジケイ大戦のトーナメントを決めるという部屋はある。

 部屋の前に着くと、俺と同じ位の子供達と分館の師匠らしき人達が群がっていた。

 おそらく俺と同じジケイ大戦に出場する子供と同伴者達だろう。


 「キリコさん、もう結構集まってますね」


 「そうですね」


 こう見るとここにいる子供は皆10代前半とは思えない顔つきだな。

 皆んなが皆んな、実力者なのだと分かる。


 「いち、に、さん、し、ご…………じゅうさん」


 自分も含めて14人、来てないのは後1人か。


 「ステイ、今の内によく観察しておくんですよ。特に体つきを…」


 「わかってますよ」


 例えば俺の正面にいるあの少年、分かりやすく前腕の筋肉が発達している。おそらく剣や槍を使うのだろう。


 だとしたら今の俺に何が出来るのか?………それはシュミレーションと比較だ。

 剣と槍もステゴロ部のときにリリスさんが持って相手になって修行してくれた。その時の感覚と緊張感をリリスさんからあの少年に置き換えるのだ。そうすれば何となくだが戦いのビジョンが見えてくる。

 そうすることでイメージとはいえあの少年と試合が出来る。


 もちろんこれは俺の想像に過ぎないし、俺の主観も入っているから精度は期待出来ない。

 だがやらないよりはやった方が断然違う。


 ただでさえステゴロというハンデを負っているのだから暇を作ってはならない。


 「………イ。…………テイ。…………ステイ、最後の1人が来た様です。部屋が開きました、行きましょう」


 「………あぁっはい!」


 脳内でのイメージはやるだけやった方が良いが、1つ欠点がある。

 脳に意識を集中させすぎて周りの状況が分からなくなる事だ。

 やるならベットの上とかがオススメだ。


 「……大丈夫ですか?」


 「はい大丈夫です。行きましょう行きましょう」


 そうして俺はキリコさんと共にトーナメントの配置を決める為、部屋に入った。

 部屋には1つの机に2つの椅子がセットで15個、間隔を空けて円状に設置されていた。

 机の上には誰がどこに座るか分かる様に紙が置かれている。


 「ステイっここですね」


 「………ふぅ」


 俺は席に座り一息ついた。

 何故だろう、昨日からは考えられないくらい緊張が無くなり落ち着いている。


 「……キリコさん、トーナメントの組み合わせってどうやって決めるんです?」


 「くじです」


 「くじかー……」


 前世はくじ運皆無だったから不安だ。

 

 (ガチャー)


 すると、俺等が入って来た扉とは真向かいに位置する黒い扉が開いた。

 扉からはリッキーが出て来た。


 「うわっ」


 やべっ、つい口から感情が出てしまった。


 だが、入って来たリッキーはそんな俺を気にせずただ静かに円状に置かれた机の中央に足を運んでいった。

 さっきまでの感情的に怒っていた人間とは思えない程に静かだ。

  こんな事言ってしまうと大袈裟かもしれないが本当に感情が無くなった様だ。


 そんなリッキーにつられたように部屋にいる子供達と同伴者達は静まりかえった。

 そして完全に静まりかえり静寂の音が聞こえてきた頃、リッキーは喋り始めた。


 「…………では……私、[リッキー・Gグランド・ケーキ]の名において、第221回ジケイ大戦の開催を宣言します」


 リッキーはそれだけ言い残して、入って来た時と同様に静かに部屋から出て行った。


 「……………」

 「……………」

 「……………」

 「……………」

 「……………」


 リッキーが出て行った後もしばらく静寂が続いた。

 そしてリッキーが出て行ってから数分が経った頃、右斜め前方に座っていた背の高いスラッとした女性が立ち上がり、先程までリッキーが立っていた位置まで移動した。


 「……それではここからは『ジケイ会館ポリネス区支館』こと『槍術部』師範である[ノム・アドクルフス]が進行をさせてもらう!」


 彼女は力強い口調でそう宣言した。


 「では!まず始めに明日行われるジケイ大戦のトーナメントを決めたいと思う………のだが!」


 すると彼女は何故かこちらに振り向き、物凄い形相で睨みつけてきた。

 その視線からは怒りを超えて殺意すら感じる。


 「1つ言っておきたい事がある。お前等は何なのだ?ジケイ大戦を舐めているのか?いやジケイ大戦以前に『戦い』というものを馬鹿にしているのか……ああ゛?」


 視線的に俺達に言っているのだろうか?

 でもまぁ、とりあえずわけわかんねぇし無視するか…キリコさんもそうしてるし…。


 「……………」


 「……………」


 「……………おい!聞いているのか?お前等に言っているんだ!」


 「……………?」


 「……………?」


 誰だよお前等って。


 「だかァら!お前等だって言ってるだろ!」


 彼女は更にこちらに対し指を指してきた。

 後ろ振り返って見ても誰もいなかったので、どうやら俺達の事らしい。


 「……ステイ、彼女と何かあったんですか?」


 「いえ何も、てかっ誰ですか彼女?キリコさんの知り合いですか?」


 「いえ……」


 「じゃあ本当に何なんですか彼女?指で人指すなんて失礼ですね」


 「ですねー……」


 こんな感じで2人でコソコソ話しているつもりだったのだが、室内では誰も何も音を発していなかったので全員に俺達の会話は聴かれていた。


 そして目線を彼女の方に戻すと、何故か彼女の視線は怒りを超えて殺意100%になっていた。


 「ッー…失礼なのはお前等だボケェ!!」

 

 おいおい、本当に失礼な奴だな。初対面の人間に暴言を吐くなんて、あーいやいや。


 「何がステゴロ部だ!何が素手で戦うだ!ふざけてるにも程があるだろう!!素手で何が出来る!?

 実際のいくさで役に立てるのか!?立てる訳がないだろう!役に立てるとしたらせいぜい苗を植える程度だろうが!

 この神聖なジケイ大戦を馬鹿にするなよこのアホ共!わかったらとっとと畑に帰れ!!そして野菜でも殴ってろ!!」


 おいおい、この女……一線超えただろ。


 「………キリコさん、いっていいですか?」


 俺はこんな安い挑発に対し素直にムカついていた。

 もちろんそれステゴロを馬鹿にされたからだ。ステゴロは俺にとって大事な大事な青春の思い出だ。

 それをコケにされて怒るな、と言われても無理な話である。


 彼女は槍術部の師範と言っていたからそれなりに強いのだろう。だが彼女は今、槍や槍になり得る物を所持していない。

 仕掛けるなら今しかない。


 「静かにしろノム・アドクルフス」


 俺があと数コンマで飛び掛かろうとした瞬間、左方に位置する席から落ち着いていて冷めた口が耳に入って来た。

 声のする方に頭を向けると、そこには頭蓋骨で頭部覆い、背中から大きな翼を生やした有翼族がいた。


 「[ゲャミー・ピンク]さん!口を挟まないで下さい!これはジケイ会館にとって大事な話なんです!……ってか!なんでジケイ会館にこんな意味わかんない分館があるんですか!?いいですかっ!私はつい昨日この部の存在知ったんですよ!私はステゴロ部の参加は認められません!」


 口調的にステゴロ部の存在は師匠レベルでもあまり認知されていないらしい。

 ……よく考えればジケイ会館的には俺の前にステゴロ部に居た人はクァイさんになる。

 つまりステゴロ部が表にでるのは約100年ぶりということになるのだ。

 彼女は師範とはいえ見た目からして若そうだから知らなくても仕方ないのか……?

 にしてもジケイ会館の分館の1つなのだから知っていて当然の事だろう!


 「………前回もこんな感じだったなー」


 隣のキリコさんはそう小さな声で呟いた。

 そして何かを懐かしむ様にニコニコしていた。


 「……私もステゴロ部の参加は認められませんね」


 すると右隣から彼女の意見に賛同する声が聞こえて来た。

 そこには糸目でオールバックの魔人がいた。

 

 「アドクルフスさんの言う、ジケイ大戦を馬鹿にしているとか以前に、我々の選手は出場するステイ・セントと戦えません。

 何故ならステゴロは名前からして『素手』でこちらは武器を持っています。勝利は絶対として……最悪、私の弟子が無意味な殺人を犯してしまう可能性がありますから」


 「…………」


 わかった事が1つある……それは、とても舐められていると言う事だ。

 あの眼中にない様な口調、視線……物凄く腹が立つ。


 「おい!ずっと聞いてりゃあ舐めてんップ!?」


 俺が怒りを声に出している途中、キリコさんが自身の中指を俺の口に入れてきた。


 「ッっぷ……おえっ」


 「ステイ、ここはあなたが喋っても意味がありませんよ。……ですよね、ピンクくん」


 ピンクくん?……あぁあのドクロの有翼人か。

 

 キリコさんに名指しされたゲャミー・ピンクはゆっくりと立ち上がった。


 「えぇ、仕方ないので私が説明しましょう」


 キリコさんは口ぶりからしてあのドクロの有翼人と知り合いなのだろう。

 にしてあのドクロ有翼人は何を言ってくれるのだろうか……。


 「私、『魔法部』師範のゲャミー・ピンクは約100年前、ジケイ大戦に出場しある男と戦いました。

 私はその頃、幼いながら国の中でも圧倒的な強さを誇っていました。なのでジケイ大戦でも優勝は揺るがない事だと思っていました……が。

 私は決勝である男と戦い……敗れました。

 話の流れ的に皆さん大体検討がつくと思いますが、その決勝で戦った男というのがステゴロ部の出身の選手でした」


 「ッ…し、信じられん……あなた程の魔法使いが素手相手に敗れるなんて…」


 「……その人の名を聞いたらいやでも信じる事になりますよ、だってその時私と戦ったのはジェミロ・クァイですから」


 「……うッそ!?!?」


 ノム・アドクルフスが引き攣った表情を浮かべると同時に部屋中にざわめきが走った。


 「嘘だ!あの方は剣術部ッ……………いやまてっ、本当なのか?」


 彼女は何かを思い出したかの様に急に黙り込んだ後、おそるおそるとゲャミー・ピンクに事実を確認した。


 「だからそう言っているだろう」


 「ッー………わかった、では訂正する。私はステゴロ部の参加を認めよう」


 ついさっきまで猛反対していたのに、彼女は人が変わった様にあっさりと参加を認めてくれた。


 「私もそういう事なら先程の発言を撤回します」


 右隣に座っている糸目オールバックも納得した様にあっさりと認めてくれた。

 何が何だかわからないが、クァイさんの名前が出ただけで何もかも収まってしまった。


 「ステイ、クァイをただの老兵と思ってはいけませんよ。クァイはあれでも王直属の兵団のなかで…実力だけでいえばトップだったんですから」


 「そうだったんですか……」


 爺さんってそんな凄い人だったのか…。

 まぁ何はともあれ皆が俺の参加を承認してくれた様でよかったよかった。


 でも、ここまでくると余計に負けられなくなってきたな……。

 クァイさん!

 急にハードル上げんといて下さいよ!ほんま勘弁してほしいわー。


 「……ッでは、話を戻して予定通りトーナメントの組み合わせを決めていきたいと思います」


 そして…………数十分後。

 トーナメントを決める会議はあっさり終了した。

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