バツライフ a.k.a【STAY・セント】

The kid 王

礎編

プロローグ

 この日はやたら暑かった。


 家にはエアコンが無いので近くのコンビニに逃げ込んだ。

 俺はなるべく長い時間店内に居たかったので少年誌を立ち読みしていた。

 最近は立ち読みする人が少なくなってきたからか、周りの視線がやたら気になる。

 気にしすぎだろうか。


 「……アイスでも買って帰ろ」


 精算を済ませ自動ドアが開いた瞬間にくる熱気が俺を楽園から地獄に落とされた気分にさせる。


 「でも………バイクで来たのは正解だったな」


 向かい風を受け、汗が気化し体が冷める。

 サウナ後の水風呂の様だ。


 そしてまた俺は暑いだけの家に帰る。


 「ただいまー」 


 玄関の向こうには誰も居ない、なのでもちろん返事はない、けどする。

 3年前に親と離れてからずっと安くてボロい部屋で1人暮らしだ。

 最近は仕事にもやっと慣れてきて仲のいい先輩や後輩もできた、女性関係だって悪くない。

 だが時々、家にいるのに「かえりてー」と言ってしまう自分がいる。

 色々疲れているのだろうか。


 次の日がまた始まった、空気の読まない目覚まし時計に殺意を持ったところで何も変わらない。

 2時間後には仕事があるだけ。

 ただそれだけ… 。


 それからそんな毎日が10年続いた。


 俺は10年で何も変わらなかったし、変わろうとしなかった。

 日々の生活が苦しいわけではない、だが苦しくないのが何故か余計に苦しかった。

 俺は刺激が欲しかった。

 与えて欲しかった。


 「………いつまで続くんだこれ」

 

 その日はいつもよりボーっとしていたのかもしれない。

 だからなのかトラックと接触する瞬間まで赤信号を渡っている事に気づかなかった。


 「……ァあ゛」


 あー痛えー超痛ぇー。 

 体動かねぇし頭も朦朧として……………もしかして…これで終わりか俺の人生。

 まぁでもこんな俺にしちゃ中々悪く無い人生だったよな。


 「……あっ」


 ……………でもまだやり残した事1つだけあったわ。


 「……結婚………したかっ…たなー………」


 もし。

 もし、もう一度人生をやり直せるなら…。

 人生やり直せたら……やりたい事全部やってやる。


 「幸せに……な…り……」



 そして俺は死んだ。

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