へべれけ時にご用心

芽久檸檬

へべれけ時にご用心

やめようと思ってもやめられないものは、人によっては様々。

食べ過ぎる甘食、早く起きるにはもったいない暖かい寝具、

そして何より昔から愛され、普段の変わらない日常から祝い事まで、

嫌なときも楽しい時も人に寄り添い、破滅へと導いたものは

お酒だと私は思う。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーある下町の雰囲気に酔いながら、

いつもの居酒屋で何も考えないでお酒を飲むことが、

仕事をしてから日課のようになっていた。それで泥酔するのがお約束だった。

それで幸か不幸か俺は未婚の男性。こんな酒酔いだからかモテるはずもなく

半ばあきらめかけていた。


何杯目で店を後にしたのだろうか、街頭の光がぼやけて見える。

足がフラフラになりながらまっすぐに歩くことにもままならなかった。




「あの、大丈夫ですか??」

と下に向いていた俺は女性に話しかけられることに驚きながらも

女性の問に答えた。

「ああ、大丈夫だよ」

薄暗く、街頭での光や今の自分の状況で顔の特徴などういう風な感じだったのか

普通ならば物を判断するにはできないくらいの酔いの状態なのに。


彼女だけは美しいと不思議とそう思えたのだ。




「それにしては、随分と千鳥足で歩いているように見えますが。」

河川にかかる大橋の歩道で街灯に照らし出す、赤い帽子を被った彼女は

不安そうな顔で俺を見ていた。

「ええ、大丈夫ですよ。家はすぐそこなので大丈夫です」

「もし、迷惑でなければ、そこまでお送りいたします」

赤い帽子を被った彼女は俺の腕を肩に回して、歩道を歩こうとした。

「え、いいですよ!!本当にそこですし!!」

と言っても、女性はそんな言葉が聞こえないかのように歩き始め、

俺はそんな彼女の意思に折れてしまった。

彼女に自分の家付近まで教え、初対面なのに送られてしまった。




次の日の夜、俺は自分の会社の後輩を飲みに誘い、いつもの居酒屋で

笑いながら飲んでいた。


「いやーそれにしても、大山さんはよく飲みますね。

酔わないんですか??」

「そりゃー酔うよ、仕事のストレスやら

上の愚痴やら仕事の仲間の愚痴やらで飲んでなきゃやってらんないでしょ??」

「それもう8割愚痴でのんでいるってことじゃないですか」



ゲラゲラと笑いながら飲んでいる、そう淡々と過ごしていると

ふとスマホを表示されている時間を見て後輩は青い顔をして、

「やばっ!!もうこんな時間!?!?奥さんに怒られる!!」

俺に謝り、後にする後輩を見て、気分が段々と沈んでいくような

ゆっくりとプールの底に身体が沈んでいくそんな感覚がした。


結局は俺も男だった。

家族からの連絡で最後らへんの言葉は結局、いい人は見つかったか。

生きているうちに俺の家族を見てみたいなどと俺もはそうだった。

家に帰れば、おかえりなさい。朝起きたら、おはよう。

仕事に行けば、いってらっしゃい。


挨拶を交わせるような関係のある人物に。

でも、自分はこうやってお酒を飲んで楽しく帰ってきて、朝起きればちょっとした憂鬱感のある目覚めのほうが俺に合っているのではないかと

そう下向きな考えをして、いつもの帰り道で私はゆっくりと足を進める。

自分の帰り道は河川にかかる大橋を渡って帰っていることからか、

自分が川に落ちるのではないかと言う面白い話を同僚から聞いたのは

記憶に新しい。




「どうも、こんばんは」

聞き覚えのある女性の声だった。

「よくお酒を飲まれるんですね」

へろへろなこんなおじさんに声をかける事自体に恐怖はないのだろうかと

脳が溺れたように弱い思考で考え、私は彼女に世間話をした。


「ここの道、落ち着くんです。川の音とか空気が少し澄んでいるようなそんな気がして。」「車は通っているのに??」「排気ガスがどうこうじゃないんです、雰囲気の問題なんです。こう気分に委ねるのも落ち着くんです。」


通な女性だ。

「あの、もしよろしければ。時間があるときに一緒に呑みに行きませんか??」

そんなことを言われると少し心が揺らぐ、酔っている状況なら尚更だ。

少し悩み、私は彼女に答えようとした。

「大山さん!!」

と振り向くとそこにはうちの同僚の遥海だった。

遥海とは私とペースが合う呑み仲間でつまみを分ける仲間である。

「こんなところで偶然ですね、また居酒屋で寄り道ですか??」

「ああ…」気まずい……いくら遥海が仲のいい同性だからと言って、異性と一緒に呑んでいたなんて勘違いされたらと思うと少し頬が熱くなるのを感じる。

「遥海、少し勘違いしているなら訂正するけど。俺は彼女とは呑んでいないから」

少し肩を貸してくれているんだと言うと

遥海は少し不思議な表情し、少しの沈黙と言葉を選びつつも

私にこういった。


「あの、大山さん。悲しいことがあって呑んだんですか??

少し酔っていません??」「え??そんなことないけど…なんで??」

「だって、そう見えませんけど……」「そっか……」


とふと肩に虚無感を感じ、目を向けると女性はいなくなっていた。

遥海は気を聞かせてくれたのか、私を自宅付近まで付いてきてくれた。


「時間があれば、話を聞きます。そういうのが多いと自分も心配になってきますので。」


そんなことがあってからは遥海は自分を気にしてかよく一緒にする機会が多くなり、


それから不思議とあの女性とは合わなくなる機会が多くなっていった。

そんなことを遥海に打ち明けると遥海は渋々とこんな話をした。

「実は私の教育担当してくれた先輩いるじゃないですか」

「ああ、ちょっと言い方に棘がある」

「言い方⋯…」「でもその先輩最近、見ませんよね」

遥海は図星を付かれたかのように、重く口を開いた。

「死んだんです」「は??」

「先輩、死んだんです」いや、そういうことで言ったことではなく。

「前の日に呑んだ際に先輩が帰る際によく大山さんの通る道を通るんですけど。

どうも私には偶然のように感じないんです」

「偶然じゃないの??」


と言うが、焦っているかのように喋っている遥海の姿に、

警戒心を持つよう言われ、遥海に言われるがまま、今日は甘えて、

車で送ってくれることになった。


そんな中、自分の歩いているいつもの中川に通っていることに気が付き、

外を見てみると。


あの子が歩道でずっと立っていた。


顔は伏せているがその立ち姿は間違いなく、あの子だった。

服装は変わっており、帽子は無くなり、紺色のコートは

鮮やかな赤色のコートになっているのが夜見てもわかった。



しかし、そんなことよりもすれ違ってから数分経って気がついたことだったが、

歩道でそんな派手な服をしているにも関わらず、その道を歩いている人たちは

目もくれなかったことに違和感を感じた。



あの子の姿はそれが最初で最後だった。

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