第3話

 横柄な取引先から怒鳴られたときには「どんまい、どんまい」と肩を叩き、期限の迫っている作りかけのデータが壊れたときには、こっそり手助けしてくれました。あなた自身の仕事だって抱えきれないほどあるというのに、少しも疲れを見せない顔で微笑んでくれました。


 決して威張らず、いつもスマートで格好いい。けれど、ふとしたときに見せる笑顔はかわいい――同期で集まればあなたは話題の中心で、そうなるとあなたに気にかけてもらっている私は嫉妬の対象になりました。


「課長と距離が近すぎるんじゃない?」


 ある日、同期の一人が睨みを利かせて言いました。


 あらぬ疑いをかけられては、あなたに迷惑がかかってしまいます。私はあなたに今までのどおりの感謝と敬愛を抱きつつ、距離を置くように心がけました。


 その距離がぐんと縮まったのは忘年会の夜でした。


 よいお年を、と皆が手を振り合って散り散りに去っていくなか、あなたは足音なく私の背後に近づき、酔い覚ましに少しだけカラオケに行かないか、と耳打ちしました。

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