第28話 夜の大通りとこれからの方針
そして、時刻は夜になっていた。
ビー玉から聞き出せた情報はリーゼの役に立ったらしい。
しかし、戦いが終わってからキヨコが探知しても街のどこにもメドゥーサと里ヶ伊の気配は見つけられなかったそうだ。
リーゼが作ったような異界にでもこもったのだろうとキヨコは言っていた。
「あーあ、今日勢いそのままに追い詰めるつもりだったんだけど。サハトゥスとの戦いが異界の展開の時間稼ぎになっちゃったか」
「時間稼ぎであんな化け物をよこすのかメドゥーサは」
「そうね、ちょっと驚いちゃったけど。サハトゥスは魔界でもそれなりの有名人だから」
人ではないような気がしたが魔族の感覚では人なのだろう。
俺たちは夜の街の大通りを歩いていた。夕飯時の街は帰宅ラッシュの残党と重なってそれなりの賑わいを見せていた。
田舎なので都会に比べれば人通りは多くはないが、ひっきりなしに車が行きかっている。
「これからどうするんだ? あいつらの手がかりとかあるのか?」
「追跡するのは異界から出てくるまで待たないとダメだから難しいでしょうね。でも、手がかりはある」
「あいつらを見つけられないのにか?」
「ええ。連中はデモゴルゴンのために30万人を犠牲にしようとしてる」
「ああ、とんだカスどもだ」
自分勝手な目的のために30万人を殺そうというのだ。どう考えてもまともじゃない。
「でも、それは30万人の魂を利用しないとならないってこと。簡単な術式じゃできっこない」
「つまり、どういうことだ?」
昨日まで一般人だった俺に魔法だのなんだのの知識が分かるはずもない。
「簡単な術式で出来ないなら、大きな術式を使うってこと。そして、大きな術式には必ず大掛かりな下準備が必要になる」
「つまり?」
まだ分からん。
「この街中にその術式を行使するための小さな術式が施されてるはずってこと。きっと、街の至る所にあるわ」
「うーん、良く分からんけど、それを潰せばデモゴルゴンの復活を止めれるってことか?」
「完全にとは言い切れないけど多分ね」
ようやくなんとなく話が見えた。大きな爆弾を動かすための小さな起爆装置が至る所にあって、それをひとつひとつ潰していけば爆弾の爆発を止めれるみたいな話か。
「でも、それ結構途方もなくないか。一体いくつあるかも分からないんだろ」
「確かに全部は難しい。でも、減らせるだけ減らすことに意味はあるわ。大きい術式の発動自体は防げなくても、規模を縮小することは出来る。うまく行けば、妨害するためにメドゥーサたちの方から出てくるかもしれないし」
巣をつっついたら飛び出してくるハチみたいな感じか。
確かにそう考えると意味のある事だと言う話だった。
「でも、発動自体を止めないと意味がない。規模が小さくなったって、何千、何万と言う人が死ぬんだろ」
「そうね。術式が発動した時点で人は死ぬわ」
「あいつらはイカれてる。こんなこと普通は出来ない。メドゥーサは魔族だったとしても里ヶ伊は人間だ。しかも一般人だ。ただの人間が30万人を殺そうなんてまともじゃない。どうかしてる。なんとか止めないとダメだ」
30万より少なくなったと言っても結局人が死ぬことには変わりがない。それは絶対に許されない。この街で暮らす平和な人たちが死ぬ。
信じられない。そんな数を殺すなんて大虐殺だ。
メドゥーサは親に怒られた腹いせなんて言ってるし、今まで医者として暮らしてきた里ヶ伊はただの人間だ。
なぜそんなことが平然と出来るのか俺にはまるで理解できない。
俺は通りに目を向ける。道を行きかう車。通りを歩く人々。彼ら彼女らの命が今危険にさらされている。
今この街は地獄の門の一歩手前に居るのだ。
「ええ、そうね。だから、最悪術式が発動する場合私がこの街の全域を異界で覆うわ」
あの、リーゼが病院でやったような異世界を作る魔法か。あれで里ヶ伊たちと俺たちだけの世界にして人々の命を守るということか。
確かにあの魔法なら人が死ぬのは防げるのか。
「それなら、なんとか大丈夫ってことか」
「一応ね。むしろそれが一番効果的。奪う魂自体がなくなるんだから術式も発動できないし」
「なるほど」
デモゴルゴンを作るための魂自体がない世界になるから術式自体使えないのか。
「でも、お前は大丈夫なのか? 街全体を異界にするなんて結構とんでもないような」
異世界を作るなんて、結構な魔法のように素人目に見ても思えた。
「そうね、すんごい疲れるわね」
「すんごい疲れるのか.....」
その程度なのか。
ならまぁ、リーゼの負担はともかく、最悪の事態だけは防げるのかもしれない。リーゼ様様だ。
「なら、これからの行動目標としては小さな術式を潰して、メドゥーサたちをおびき出すって方向か」
「そういうことになるわね。結局メドゥーサと里ヶ伊の捕縛が最終目標になるから」
なるほど、そうと決まれば善は急げだ。
と、リーゼがなぜだか微笑んでいた。
「なんだよ」
「いえ? なんかタカキ積極的に協力してくれるなって思って」
「そりゃあ、この街全員死ぬかどうかって言われたら協力するしかないだろ」
俺と同じ状況なら人間誰でもそうするだろう。むしろ、そうせざるを得ないというレベルだ。
「ふふ、でもなんか嬉しいわ。私誰かと一緒に行動することってあんまりないから」
「そうなのか?」
「ええ、なんか協力して行動するのって楽しいわね」
何言ってるんだ。急にそんなこと言うな。ちょっとトキメキかけるだろうが。
なにせ、リーゼは容姿はかなり整っているし。
「そうか、それは良かった」
俺は気恥ずかしさを隠しつつ言った。
「ええ、タカキを下僕にして良かった」
「ああ、まったく。なんでか俺はお前の下僕だ」
まぁ、トキメキかけても結局こいつとは主と下僕の関係なわけだが。こいつ次第で俺の体も意思も思うがままなわけだが。
そう考えると急に気分が落ち着いてきた。
なんだかな。
「さて。なら、術式の基点を探しに行きましょうか」
「了解だ」
そう言って、俺とリーゼは通りから飛び上がって夜の街を飛び回るのだった。
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