第24話 岩の雨と拮抗の崩壊
目の前では超常現象のオンパレードが繰り広げられている。
俺はその中を飛び回っている。
「隙を作れって言っても」
馬鹿でかい球体は本当にまん丸だ。
そこかを小突けばこっちに意識を向けるという感じもしない。
ぐるりと飛び回るがまるで手ごたえがない。
「なにをどうすれば良いんだか」
球体は微動だにもせずリーゼと戦っている。
リーゼは走る雷とブラックホールの中を飛び回りながら緋色の風を球体にぶつけている。
球体の形は崩れるが決定打といった感じではない。
このままいけばリーゼの勝ちといった雰囲気はない。どっちに天秤が傾いてもおかしくはなかった。
「俺が蹴りつけたってなにも起きないよな」
大体、この体は今幽霊みたいなものだ。球体には何もできないだろう。
どうしたものか考える。
なにか方法は。
「飛び回っているだけではなにも変わらないぞディアベルの眷属」
と、唐突に球体がリーゼではなく俺に話しかけてきた。
俺はビビる。こんな化け物が俺に意識を向けているということだ。
「ディアベルが眷属を作ったと聞いたからどんなやつかと思えばまるで普通の人間か。少々拍子抜けだ」
怖い怖い。こんなでかい生物(?)が俺に話しかけてくる。怪獣が俺に声をかけてくるようなものだ。生きた心地がしない。今、生きていると言える状況なのかは分からないが。
「断言するが、このまま行けば私が勝つ。能力は互角だ。だが、魔力量が違い過ぎる。今回の私は、ディアベルを殺すために魔力の多い体で来たからな。いずれはじり貧だ」
「なんだって」
ゲームのリソース差みたいなもんか。確かに今はリーゼが互角に張り合っているように見えるが、いずれ魔力が尽きて敗北するというのか。
『タカキ、そいつの話聞かないで。魔力量でだってこいつに引けは取らないんだから』
さらに横からリーゼの通信が入った。なんかてんやわんやだな。
「魔力が切れれば私のカラーを打ち消せない。そうすればただの人間と同じでぺしゃんこだ」
『悪いけど、私ぺしゃんこになったくらいじゃ死なないから』
「ことは急いだほうが良いぞ眷属。君に状況を打破できるかは疑問だがね」
『急いだほうが良いのは事実ね。このまま勝ちあぐねるのは面倒だもの』
両者が好きなことを好きなように言ってくる。
全然考えがまとまらない。
勝手なことばっかり言いよってからに。
どっちにしても俺はなんとかリーゼを勝たせる方法を探すと言うことだけは確かだ。
「考えろ。考えろ」
俺は自分に言い聞かせる。
と、その時だった。
「さて、私も時間は惜しい。さっさと削るとしよう」
球体の前、そこに瓦礫が集まっていく。景色のすべてが球体の前に集まっていくようだった。
それが圧縮される。すべての瓦礫が集まり、巨大な塊になる。
球体と同じくらいの大きさになる。
「重力操作と言われるがね。私は斥力も操れるんだ。ブラックホールや浮かせた瓦礫には私の魔力が通っているから君の赤い風で打ち消される。しかし、ただ放たれた岩塊はどうかなディアベル?」
球体がそう言ったと同時だった。
球体が作った岩塊、そこから、豪雨のように岩の塊が降り注ぎ始めた。
もちろん、下に居るリーゼに向かってだ。
『いたたたたたた!!! むちゃくちゃ痛いんですけど!!!!』
テレパシーでリーゼが激痛を訴えてくる。
痛いで済んでいるのが良く分からないが、どう見てもリーゼはピンチだった。
『コンチクショー!!!』
リーゼの叫びと共に岩の雨の下で岩が破砕される。リーゼが拳や蹴りで砕いているのが見えた。
しかし、
「無駄だディアベル。もう君は追い詰められている」
リーゼが砕いた岩、それは再び球体の重力操作で球体の前の岩塊に戻っていく。これじゃ無限ループだ。
球体は文字通り魔力が続く限り能力を使い、岩の雨を降らせ続けるだろう。
対するリーゼも体力の続く限り岩を砕き続けるだろう。
つまり、先に力尽きた方が負ける。まさにそういう状況だった。
球体は魔力に絶対の自信があるらしい。球体目線で行けばこのまま時間をかければいずれ勝利がやってくる。
『ちょっとタカキ!! なんとか隙を作って!!』
怒り混じりの叫びがリーゼから届く。
『このままでも負けないわよ? 全然負ける気はしないんだけど! でもちょっと、かなり面倒だわ!!!』
虚勢なのか、強がりなのか、それとも実際リーゼにはその自信があるのか。しかしとにかく、色々急いだ方が良さそうだった。
「でも、どうすりゃいいんだこれ」
『なんとかなるわ!』
「なんとかなるってお前」
かなりむちゃくちゃを言われている気がする。
『そうね、とりあえずあいつの体の中にダイブよ。そしたらなにかあるかも』
「やんわりし過ぎだろ! しかもむちゃくちゃ怖い!!!」
あまりにも投げやりなアドバイスに驚愕だった。
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