最終話 ざまぁ
俺はその日、会社を休んだ。
社会人としていきなり休むのはあまり褒められたことでは無いが、しょうがなかった。
何故って、一獲千金のチャンスが舞い込んで来たんだ。
……正直、俺個人は金が欲しいと思ったことは一度もない。
正確に言うと、自分が稼いだ金に不満を持ったことは1回も無かった。
だけど……
それが家族の問題になると話は別だ。
嫁さんとの老後の問題があるし。
子供たちの学費の問題もある。
嫁さんとの老後資金は絶対安心だとは口が裂けても言えないし。
子供たちの学費にしても、もし子供たちが大学院に行きたいなんて言い出したら破綻の可能性がある。
金は、あるならあるだけいいし。
貰えるなら是非欲しい。
これは断じて欲張りじゃ無い。
必要な事なんだ。
……競馬のオッズとかいうやつ。
競馬はしたことがないが、万馬券って奴が存在するんだろ?
ってことは、数倍の倍率の馬って、珍しくないのでは?
数倍でもデカイよな。
1千万円が、数千万円になるんだろ?
数千万だぞ?
これはとんでもないことだ。
チャンスの女神は前髪しか無い。
これは……決断のときかもしれない。
俺たち夫婦の老後資金と、子供たちの学費を合わせると現在貯金は5000万円ちょいある。
それが数倍になれば、億を超えるじゃないか……
俺は悩んだ。
悩み抜いた。
そして……
決断した。
銀行振り込みで馬券を買った。
注ぎ込んだ額は5000万円。
夢で見た日付に、シンメツザンのレースは確かにあって。
そのシンメツザンの予想オッズは
……12倍。
勝てば5億以上……!
それを意識したとき、手が震えてしまった。
5億……!
5億……!
そうなれば、俺は恵子に一生の安泰を与えてやれる!
それが出来るなら、俺はもう何にも要らない……!
『1着はルシファーハンマー! 2着はスマッシュクリムゾンー!』
……俺は真っ白になっていた。
2025年3月15日のシンメツザンのレース……
間違いないはずなのに。
何故だ……?
何故だ……?
おれのなかで、すべてがこわれていく……
★★★
月山のやつ、レースには行ったのかなぁ?
オッズは最終的に20倍だっけ。
アイツの貯金、いくらあったのか知らないけどさ。
人生初の大博打に挑んで……
どんな気持ちだろうな。
知らんけど。
俺さ、高校のときに失恋したんだよね。
中学のときに全国模試の会場で見かけたあの子……
恵子さん。
その子を親友だった月山に付き合って受けた高校の入学式で見掛けたとき。
俺は運命を感じた。
……初恋で、一目惚れだったんだよな。
全国模試の会場で見掛けた子に本気で惚れたけど、連絡先なんて知らないし。
なのに、高校に行ったらそこに居た。
これは運命だと思っても変じゃ無いよな?
なのに……
入学後3日で、あの子は月山の彼女になった。
そのときの俺の絶望は、誰にも分からんだろうな。
今でも、あの子が離婚にでもならんかなと独身を貫いてるくらいだし。
……あ、そうそう。
俺が開発してる機械だけどね。
夢の機械なんだわ。
簡単に言うと、望みの夢を見られる機械だ。
事前に見たい夢のシナリオを書き出して機械に読み込ませ、それを専用の機械で電波にし人間に浴びせると、浴びた人間が次に眠ったときに見る夢がそれになる。
開発に至った理由は「明晰夢では夢で見る内容に実感が伴わないから」だ。
考えてもみてくれ。
いくら頭の中で「俺の嫁さんは恵子さんだ」と強く思い込んでも
それは当の本人が「嘘である。真実は違う」と知ってるから、実感を持つことは無いだろ?
夢は、それが夢であると知ってる状態で実感を味わうことはできないんだよ。
普通は。
俺の開発している機械は、その問題点をクリアする画期的な発明ってワケ。
電波の放射装置も小型化するのに苦心したよ。
努力の結果、胸ポケットに入れても目立たないくらい小さくなった。
おかげで別れ際に抱き合っても気づかれなかった。
……しかし
「あのレース、どうなったのかな?。まぁ、アイツの選択だけどさ」
ざまぁ。
【KAC20254】チャンスの女神は前髪しか無いから XX @yamakawauminosuke
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