目覚めて……

 心臓がうるさくて仕方なかった。

 でも、心臓が鳴るということは生きているということ。

 安心と同時に恐怖心が蘇る。

 私は脱衣所に向かい、タオルで汗を拭き、シャツを着替える。

「また?」

 洗面所を使いにやってきた娘が問う。

「ええ」

「もう十回目よね。年明けしたらもうないかなと思ったんだけど」

「私も。……でも、結局はまた見るのよね」

「何か理由があるのかな?」

「……どんな理由よ」

 私は弱々しく聞く。

 そんな私の反応に気づいてか、

「今回はひどかった?」

「ええ」

「一度、メモして整理してみたら?」

「前にやったわよ」

 あの街で知ったことをメモして詳細にしてみた。

 それでも分かることは、大雑把な地図が出来るくらい。


  ◯


 昼頃、私は前からメモしていたあの街の情報に昨夜の情報を付け足す。

 西側エリアには工房兼倉庫があり、クリーチャーにすぐ襲われたこと。

 そしてさらに西へと進むと工場群が現れた。

 色んな工場があり、私達は一つ一つ調べ、そしてその度に仲間が一人一人犠牲になっていった。

 加奈子ちゃんの次は新山さん、草野君。この頃には工場を調べるとやられると理解したので私と大滝さんは工場を調べるのをやめて、近くの民家に隠れた。

 和室があり、炬燵に入り、テーブル台にはお酒とつまみ、スナック菓子、そして拳銃を置いた。拳銃はクリーチャーを倒すためではない。自殺用だ。

 私達は奴らが来るまで雑談しながら過ごした。

 けれど奴らはなかなか来なかった。

 私がお手洗いから帰ってくると大滝さんは死んでいた。

 私は半狂乱に鳴り、外に出た。

 そしてクリーチャーが後ろから追いかけてきた。

 私はすぐに拳銃で自殺しようとしたけど、拳銃は炬燵の上。

 持ってくるのを忘れたのだ。

 私は全力で駆けた。

 その気になれば、やつらは一瞬で私を殺せただろうが、やつらはすぐに私を殺さなかった。少しずつじわじわと私をなぶる。

 左腕を噛みちぎられる。しかも上手い具合に肉だけを噛みとる。剥き出しになった骨が風に当たると熱い痛みを私に与える。

 次に右のアキレス腱を爪で切られる。右足を引き摺ることになった。

 その後、髪を引っ張られ、体をおもちゃのように投げられた。

 爪で背中を引っ掻かれる。

 顔を引っ掻かれて、目を損傷。

 舌を鞭のように動かして、私の体を痛めつける。

 腹部に爪で穴を開けられ、舌が穴の中に入り、内臓を舐め回す。そして腸の端を舌で絡めて掴むと引き抜かれた。

 電流のような痛みが伸びる。電流は終わることなく私の体の外から発電される。腸が縄のようにしなれば、電流が踊り、バチバチとした火花が瞼の裏に現れる。腹の中は火傷のように熱く、外へと伸びきった腸の動き一つ一つに連動して、血を吐き散らす。


  ◯


「これまたグロいわ」

 夜、娘が私のメモを読んで、険しい顔をする。

「ええ」

「小説にしたら?」

「出版社に持ち込めと?」

「ううん。今はネットで小説公開とか出来るから、そっちでやってみたら?」

 私は自身のメモを見る。

 面白いか、面白くないかと頭で考える。

「…………つまらないんじゃない?」

「なら、夢を見る原因を読者に聞くとか? もしかしたら、これを読んで大滝さん達がお母さんに気づいて現れるかも」

「大滝さんは50代だから読まないわよ」

「なら、草野とか加奈子とか」

「まあ、若い子ならネット小説とか読みそうね」

「ものは試しにやってみようよ」

「……」

「ちょっといいかな?」

 今まで険しい顔で黙っていた夫が手を挙げる。

「何?」

「夢の中でお互いの連絡先を交換するようなことはなかったのかい?」

「…………そういえば!?」

「もし今度、夢で会えばやっとみるといい。それとネット小説で公開する予定もあるとか」

「そうね。ええ。それはいい考えね」

 夫にしてはいい考えだった。

「てか、お母さん、どうして今までなかったの? 普通はあるでしょ? どこに住んでるとか?」

 娘が呆れたように言う。

「そう言われても逃げることとかに必死だったし……」

「とりあえず、次は連絡先の交換だね」

「まず確認だが、自分のケータイ番号は覚えているか?」

 夫が聞く。

「もちろん」

「私の番号は?」

 娘が自身を指して言う。

「もちろん覚えているわよ」

「では、私は?」

「…………あー、覚えてないわ」

 夫の電話番号は覚えてなかった。

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調べよ。そして隠れろ。 赤城ハル @akagi-haru

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