後悔

星之瞳

第1話

「あの夢を見たのは、これで9回目だった」

俺は飛び起きた。

「くそっ!又あの時の夢か、何で今更。これで9日連続だぞおまけに最後に変なことを言いやがる。明日も見させるつもりなのか?なにが目的なんだ!」

答えは無い。見るとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

「毎日毎日、目覚めが悪いったらありゃしない」俺は独り言を言いながらカーテンを開けた。


俺は年金暮らし、おまけに独り身だ。昔は結婚して娘もいたのだが・・・・。


50年ほど前、俺は結婚し娘を授かった。妻は専業主婦をして俺が働くという当時では普通の家庭だった。

ある休日朝から妻が「頭が割れるように痛いの。病院へ連れて行って」と言ってきた。

「接待ゴルフがあるから自分で何とかしろ!」俺はそう言って痛がる妻を置いてゴルフに出かけた。


昼過ぎゴルフ場に電話がかかってきた。『奥さんが救急車で運ばれ神崎総合病院に入院しました。病院の方においでください』と言われた。でも俺は取引先の接待を優先し、病院に行ったのは夕方になってからだった。

病院に着き、受付で名前を言うと、「こちらにどうぞ」と地下に案内された。『霊安室』とドアに書かれた部屋に入ると娘が寝かされた遺体に「お母さん、お母さん」と言いながら泣いている。男が話しかけてきた。

「奥様は救急車で当院に運ばれましたが手遅れでした。もう少し早く搬送されていれば助けられたかもしれません。ご主人ですよね。お顔を確認されて下さい」そう言うと男は顔にかけられた白い布を取った。

「妻に間違いありません」俺はそう言った。その声を聞いて娘が顔を上げた。

「お前なんで今頃来たんだ!お母さん朝から頭が痛いって言っていただろうが!その時お前が病院に連れて行っていればこんな事にはならなかったんだ!この人殺し!お前なんて親じゃない!」ものすごい形相で娘は俺をにらむ。俺はその憎悪に気後れして何も言えなかった。


妻の葬儀が終わると、娘は『お父さんと暮らしたくない』と妻の兄の養子になった。妻の遺骨も義兄夫婦が引き取った。俺は娘が成人するまでの費用を義兄夫婦に渡し、正式に俺と娘の縁は切れた。


それからは俺は一人で今まで生きてきた。娘には成人してから1回だけ法事の時に会ったきり。その時も言葉すら交わさなかった。


長い月日が流れ俺も年を取った、そして今になって妻が死んだ日の夢を見る。

あの時ゴルフを止め、妻を病院に連れて行っていれば人生は違っていただろうか?

答えは出ない。後悔の気持ちがあんな夢を見せたのだろうか?

そういえば今日は何日だっけ?代り映えのない毎日に日付が解らなくなる。カレンダーで確認すると、今日は妻の命日。

「そうか、お前が呼んだのか。俺が来ないと思って何日も夢を見せたんだな。解ったよ久しぶりにお墓参りに行くか。」俺は朝食を食べ、身支度を整えると妻の遺骨が安置されている納骨堂へと向かった。




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後悔 星之瞳 @tan1kuchan

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