【回天堂キ譚】トリノ光臨篇4 白昼夢からの目覚め(daydream daybreak)

サイノメ

第1話 デイドリーム

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 初めて見た日は今でも覚えている。

 この大昔の町並みを再現した『V.R』。

 そこにある何故か自宅兼店舗と全く作りの同じ店に立っていたのが始まりだった。 

 今では、そこが自宅いえと同じ『古書店 回天堂』だったのかは分かっているけど、当時は随分驚いたものだった。

 ノスタルジックな空間にぽつんとある古書店だったが、それは雰囲気にマッチしていた。

 そこで彼を探していた。

 彼の名前は九堂くどう勇気ゆうき

 災厄という混乱と恐怖、そしてその後の平静と安寧の世界を作り上げた張本人。

 彼が逃げた先が、この白昼夢デイドリームの世界だった。


 そしてまたわたしはこの世界へと足を運んだ。

 現実世界で彼は今も世界を救うための研究を続けている。

 その彼がこの世界に残したものを回収するためだ。

 正直な話、わたしは九堂勇気を好きにはなれない。

 彼が無謀な実験を計画したためにわたし達は産み出されたのだから当然ではある。

 だが、恨みの気持ちは既に無い。

 彼もその実験を選択しないと進めない状況だったことを知ったから。

 そしてその実験が、あの災厄を収める手立てだったから。

 そんな複雑な思いを持って、あのおぞましいまでに懐かしいあの夢へと向かった。

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