パンケーキ・ナイトメア

西川笑里

9回目の夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。もしかして、これは何かの暗示なのかもしれない。

いや、どう考えてもそんなはずはないのだけれど、9回も同じ夢を見ると、さすがに気になってしまう。

 だって、内容がめちゃくちゃバカバカしいのだ。

 毎回、夢の中で私は巨大なパンケーキの上にいる。ふわふわの生地の上でゴロゴロしながら、メープルシロップの滝を眺め、バターの山に腰かけている。

 しかし、ここからが問題だ。

 パンケーキの端から、毎回同じセリフが聞こえてくる。

「貴様、また来たな……!」

 振り向くと、そこには——

 しゃべるフォークとナイフ。しかも、めちゃくちゃ怒っている。

「何度も何度も我々の領地を荒らしおって……!」

「おのれ、人間め! 今こそ決着をつける時!」

 そう、私は9回とも彼らと戦っているのだ。

 フォークは突き刺そうとしてくるし、ナイフはものすごい速さで斬りかかってくる。

 私はパンケーキの上を転がりながら逃げ、シロップの川を飛び越え、バターの崖を滑り降りる。

 ——だが、逃げ切れた試しがない。

 必ず最後は、フォークとナイフに捕まり、カチャカチャと音を立てられながらこう言われるのだ。

「さあ、最後の審判だ……!」

 そして私は、どこからともなく現れた巨大なスプーンにすくわれ、口へと運ばれる——


 そこで目が覚める。


 9回目の朝も、まったく同じだった。息を切らしながら目を開けると、天井を見つめて呆然とする。

 ——なんなんだ、この夢は

 夢占いで「パンケーキ」と「フォークとナイフ」を調べても、まともな答えは出てこない。

いや、むしろ「甘い誘惑に注意」みたいなそれっぽいアドバイスばかりで、私の命がフォークとナイフに狙われている事実には一切触れられていない。

 しかも、私は妙なことに気づいた。

 夢の中でフォークとナイフが言っていたこと。

「貴様、また来たな……!」

 これって、もしかして——向こうも覚えているってことじゃないか?

 つまり、あの夢は私の脳内が勝手に作り出した幻想ではなく、パンケーキ界の住人たちがリアルに怒っている可能性があるのでは……!?

 だとしたら、次に夢に入るとき、私はどうすればいい? また逃げる? いや、9回も失敗しているのだ。

 だったら……

「戦う……しかない……?」

 私は拳を握った。

 今夜、10回目の夢で、私はついにパンケーキ界の決戦に挑むことになる——

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