「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」
水曜
第1話
「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」
毎晩同じ夢を見て、目が覚めるたびに背筋が凍る。最初はただの悪夢だと思っていた。だが、回数を重ねるごとに、夢の中の世界は確実に"進んで"いた。
最初の夢では、ただ黒い森の中に立っていた。風もなく、音もなく、ただ漆黒の闇が広がるだけの空間。
2回目の夢では、遠くに白い屋敷が見えた。
3回目の夢で、俺はその屋敷の前に立っていた。
4回目の夢で、扉がひとりでに開いた。
5回目の夢で、屋敷の中に足を踏み入れた。
6回目の夢で、廊下の奥に誰かが立っているのを見た。
7回目の夢で、それがこちらに向かってくるのを感じた。
8回目の夢で、俺の耳元で「あと少し」と囁かれた。
そして9回目——今夜の夢。
俺は、またあの森に立っていた。屋敷の扉はすでに開いている。まるで俺が来ることを知っていたかのように。躊躇う間もなく、足が勝手に動き出した。
廊下は相変わらず静かで、壁に掛けられた無数の肖像画が俺を見つめているように感じる。足音が響く。自分のものだけではない。
「待っていたよ。」
背後から声がした。凍りつくような冷たい声。振り向くべきではないと本能が告げている。
それでも俺は、ゆっくりと振り向いた。
そこにいたのは——俺だった。
いや、"俺によく似た何か"。
目が異様に暗く、口元だけが不自然に笑っている。もう一人の俺は、ゆっくりと手を差し出した。
「もう、入れ替わる時間だよ。」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中に過去の記憶が流れ込んだ。9日前、俺は確かにこの屋敷にいた。そして——この身体は、本当の俺ではない。
「お前は……誰だ?」
俺は震える声で問いかけた。
もう一人の俺は、ただ静かに笑った。
「9回目だね。今度こそ、こっちの世界に来る番だよ。」
その瞬間、視界が真っ暗になった。
——目が覚める。
ベッドの上。見慣れた天井。夢だったのか?
そう思って、起き上がろうとする。
だが、身体が動かない。
浮かび上がる姿を見て、声にならない叫びが喉に詰まった。
そこにいたのは、あの"俺によく似た何か"。
新しい"俺"がゆっくりと笑った。
「もう、こっちの方が君にとっては夢になったんだよ。さあ、何もない現実の世界に早く帰ると良い」
「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」 水曜 @MARUDOKA
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