第13話 熱
園内をぶらついていると、見えてきたのは、
ひときわ存在感を放つ巨大なジェットコースター。
金属のレールが空を切り裂くようにうねっていて、
ひゅうぅうん……と絶叫と風を切る音が空気を震わせている。
正直、あれには絶対に乗りたくない。
でも、一応、訊いておかないといけない。
男の矜持的に。
「あれ……乗らなくていいのか?」
俺はできるだけ平然を装って、ジェットコースターを指差す。
すると、隣で愛華が小さく首を振った。
「激しい乗り物は、苦手なの」
……神様ありがとう。
思わず、心の中でガッツポーズを決めた、その瞬間。
「……いま、ほっとした?」
鋭い。
こいつ、勘が良すぎる。
「いいや?」
嘘はついたけど、声が半音上ずったのは自覚してる。
「ふふっ……あなた、ジェットコースターが苦手なのね。
これは……使えるわ」
「おい、まさかまた異次元に飛ばしてなにかしようとか
考えてるんじゃないだろうな」
愛華は、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「安心して。しばらく、その予定はないわ」
……なんだ、その“しばらく”って。
「……“しばらく”って、どれくらいだ?」
「一週間くらいかしら」
一週間って短くね!?
賞味期限か!
「……」
返す言葉も見つからず、俺は黙った。
やっぱり、愛華にはあまり弱みを見せない方がよさそうだ。
見せたら最後、きっとまた椅子に縛られて感電コースだ。
今度は高所から逆さ吊りオプション付きとか言い出しかねない。
心の中でそっとため息をつきながら、俺は笑っている愛華の横顔をちらりと見た。
――まあ、こんな日が続くなら、それも悪くないけどな。
「っ…!」
ふと、足元がぐらついた。
視界がぐにゃりと歪む。
地面が遠くなったり近くなったり、まるで万華鏡の中を歩いてるみたいだった。
「……っ、あれ?」
ぐらり、と身体が傾いた瞬間――
「ちょっと、だいじょうぶ!?」
愛華の声がすぐ耳元で聞こえた。
気がつけば、俺は彼女の腕の中に抱きとめられていた。
……うん、情けない。
「まさか、熱があるんじゃない?」
心配そうな瞳で俺を見つめると、
愛華はそっと額に手を当ててきた。
ひんやりとした彼女の手のひらが、やけに気持ちいい。
「……熱いわ。今すぐ帰らなきゃ」
「俺は……大丈夫。それより……」
言葉を途中で切って、なんとか笑顔を作る。
「……愛華が乗りたがってた乗り物って、観覧車……だろ?」
彼女は少し驚いたように目を丸くして答える。
「そうよ…だけど…観覧車は、また今度にしましょう」
言い終えると同時に、彼女の指先が魔法の構えを取る。
目を閉じる間もなく、世界がぐにゃりとねじれた――
魔法少女に気をつけろ!!! おふとん @ohutonkun
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