第6話 謎の部屋
食堂に足を踏み入れると、
テーブルの上に並べられた料理が目に入った。
色とりどりの皿が並び、そのどれもが美味しそうで、
香りだけでも食欲をそそるものばかりだ。
料理の数だけでなく、その質にも驚かされた。
まるで高級レストランに来たかのような豪華さだ。
俺は彼女と向かい合う形で席に着き、手を合わせて食事を始めた。
食事の間、愛華はあまり多くを話さなかったが、
時々、彼女の視線が俺に注がれることに気づく。
食べるものに集中しようとしても、
その視線がどこか気になって仕方がなかった。
それにしても、これだけの料理を目の前にすると、
食べることに集中せざるを得ない。
「全部、美味しい…」
思わず口から言葉が出た。
愛華は微笑みながらそうねと頷いた。
食事を終えた後、しばらく黙って座っていたが、
やがて美佐子さんが立ち上がり、
食器を片付け始めた。
その動きは手馴れていて、無駄な動きが一つもない。
俺も何か手伝おうと立ち上がり、皿を下げようとしたが、
美佐子さんがすぐに止めた。
「大丈夫ですよ、山崎さま」
美佐子さんは優しく微笑んで、俺に手伝いをさせないようにした。
「お休みになさってください」
それでも、俺はそのまま何となく手伝いを続けた。
美佐子さんが忙しく動いているのを見ていると、
ただ座っているのが気が引けたからだ。
美佐子さんは、それを特に気にする様子もなく、
さっさと後片付けを終わらせていった。
片付けが終わると、美佐子さんは身支度を整え、
静かに俺たちの方を見て言った。
「私はこれで失礼します。お嬢様、山崎様おやすみなさいませ」
「お疲れさま、ゆっくり休んでね」
愛華が微笑んで答えると、
美佐子さんは軽く頭を下げ、静かに屋敷を後にした。
ドアが閉まる音が、屋敷の中に響く。
静寂が訪れ、俺は愛華と二人きりになった。
時刻はすでに夜の9時を過ぎていたということもあり、俺達は風呂に入ることにする。
「直哉。あなたは二階のお風呂に入ってきて。すでに準備してあるから」
二階?
俺は少し驚きながらも、頷いた。
「わかった」
二階の廊下を歩いた先、脱衣所の向こうにあったドアを開けると、
そこには広々としたバスルームが広がっていた。
服を脱ぎ、そのバスルームの中に足を踏み入れる。
大きな浴槽、温かい蒸気が立ち込める中、
まるで別世界に足を踏み入れたようだった。
湯船に浸かり、温かいお湯に包まれると、その贅沢さに思わずため息が漏れる。
しばらくのんびりと過ごした後、
風呂を出ると、
籠の中に新品の肌着とバスローブが整然と置かれていた。
それを手に取り、体に巻きつけてから一階へ向かった。
一階に降りると、目の前に現れたのは、
クマ耳フードを被ったパジャマ姿の愛華だった。
その姿に思わず微笑みが浮かんだ。
可愛い、と思った瞬間、なんとも言えない温かい気持ちが心に広がる。
「お風呂はどうだった?」
愛華がにっこりと微笑んで、尋ねてきた。
「すごくよかった」
俺は心からそう答えた。
「あの風呂の広さ、高級ホテルみたいで驚いたよ」
愛華は少し得意げに微笑みながら、言った。
「これからもっと驚かせてあげるわ」
その言葉に、俺は思わずどきっとする。
ふと、あの開かずの間のことが脳裏をよぎった。
あの部屋の前に立ったとき、感じた不安と好奇心。
地下へ続くという話を聞いてから、どうしても気になっていた。
突然、愛華が俺の手を引いた。
「来て」
彼女の声に引き寄せられるように、
俺は無意識にそのまま歩みを進めた。
愛華は無言で、僕の手をしっかりと握りながら、
開かずの間へと足を向けた。
そこにたどり着くと、彼女は立ち止まり、
扉をじっと見つめた。
ドアノブのない扉の前、
「開けるわ」と愛華は呪文を口にし始めた。
彼女の手が扉にかかり、何かが反応するような気配を感じた。
しかし扉は動く気配を全く見せない。
愛華の顔にわずかな焦りが見えた。
「だめ…、まだ力が足りないみたい…」
彼女は肩を落として、少し悲しげな表情を浮かべた。
その様子に、俺はなんとなく胸が痛んだ。
どうしてこんなにもその扉を開けたがるのだろうか。
愛華は続けて言った。
「魔力を補給するにしても、直哉の魔力が貯まるのは、1週間後くらいだし…」
彼女が落ち込んでいるのを見ていると、
何かできることがないのかと思わずにはいられない。
「もっと早く魔力が貯まる方法はないのか?」
と、俺は愛華に問いかけた。
愛華は少し沈黙してから答える。
「あるけど…」
その言葉を聞いて、俺はもっと詳しく聞こうとしたが、
愛華はすぐに首を横に振った。
「…でも、その方法は言いたくない」
俺はそれ以上、追及することができなかった。
彼女が言葉を濁すその様子に、
何かしら隠していることがあるのは分かっていた。
だがら無理に聞こうとはしなかった。
愛華が何かを隠しているのは、きっと俺にとってまだ早すぎることなのだろう。
だから、今はそれを尊重しようと思った。
「わかった、無理に聞こうとはしないよ」
と、俺は優しく言った。
愛華は静かに頷き、しばらく黙って立ち尽くしていた。
「明日学校は休みだけど、もう遅いから寝るね」
愛華はそう言って、ゆっくりと部屋へと戻っていった。
その姿が見えなくなるまで、俺はぼんやりと彼女の背中を見送り、
時計に目をやる。
時間はすでに遅く、体も疲れていた。
執事の仕事でかなりエネルギーを使ったせいか身体が重い。
自分の部屋に戻り、俺はそのままベッドに横になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます