九死に何を得るか

うめつきおちゃ

第1話 夢なんじゃない?あれもこれも

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


目の前の男の発言に、私は小さく『あぁ、そうですか』と返す事しかできない。


男は言った。

『隣の家に住む大学生がある日、包丁を持って殺しに来るんだ。なんの交流もないのに』


ハッキリ言って面倒臭い。


夢を信じて隣人を殺したんだから、自身の罪をさっさと認めればいいのに。


仕事だから仕方ないとは言え、私はこういった時間が大嫌いだ。


自分の非を認められない人間なんてみんな一律、地獄に落としてしまえばいいのに。


まぁ、そんな事したらすぐに地獄はいっぱいになってしまうか。


まったく、どいつもこいつも。

嘆かわしい。


「それで、私はどうなるのでしょうか?私は被害者なんですけど?」


この男は何を言っているんだ?

お前が被害者なわけないだろ。


隣人はお前に刺されて、どれだけ苦しんで亡くなったと思ってるんだ。


なんて説教をしたところでどうせ響かないだろう。カロリーの無駄遣いだ。

私はそう思い、言葉を飲み込み、事実だけを伝える。


「貴方が犯した罪は殺人罪です。加害者は貴方、隣人は被害者。これは変わりません」


言われた男はよほど意外だったのか、口をあんぐり開けたまま固まる。


はぁ、まだ無駄な時間を使わせるつもりか。


「私は何度も、何度も何度も奴に刺されたんですよ?!だと言うのに私が加害者?!そりゃ道理が通らないでしょう!」


「そうは言っても貴方ね、あちらさんは事実、貴方に何度も刺されて亡くなったんだ。それを被害者だなんて、そっちの方が通らないでしょう」


まだ何か言いたげな男は、自分の靴を脱ぎ、こちらに向かって投げてきた。

そんなもの、当たるわけもないし、当たったところで何も変わらないのに。


「こら貴様!なにをしてるか!」

「離せ!離せよ!俺は被害者だ!ええい、認めないぞ!俺が加害者なわけあるか!」



この期に及んで自身の罪を認めるつもりがないらしい。

「はぁ、最近、あなたの人間が多くて困るよ。昔よりも増えた気がする」

「昔からあなたの人間は腐るほどいましたよ。気の際では?」


私の秘書は今日も冷たい。ちょっとくらい労ってくれてもいいのに。

男が連れて行かれるのを見ながら、私はそう思った。


「閻魔さま、次が詰まっています。今の人間は地獄行きでいいですね?」

「はいはい。ハンコ押しました。じゃあ次呼んで、次はどんな人?」

「隣人トラブルで襲われ、逆にやり返し、包丁で刺し殺した男です。夢で隣人から襲われるのを前に見ていて、返り討ちの準備していたらしいですよ」

「あぁそう。さっきの彼、相打ちだったんだ」


なるほどね。


人間って色々大変そうだ。

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九死に何を得るか うめつきおちゃ @umetsuki_ocya

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